01/04 アイスバーグ

接待でご飯を食べてくるだろうから少なめのおかずだけにして、お風呂は八時に沸けるようにして、部屋を暖かくして、バタバタと部屋が快適になるように忙しなく動きすぎたのか、六時にはやることがなくなってしまった。帰ってくるのは八時だ。どうしようかと悩みながら部屋を行き来すれば、寝室からふわりと彼の残り香がして気づけばベッドに寝転んでいた。今日が一番忙しいのはわかっているのだ。けど、会社でのアイスバーグさんを知らない私は疎外されていると感じてしまい、嫉妬する。そんな自分も嫌だ。悶々とどんな風に祝われてるのか、とかアイスバーグさんはどんな顔をするのだろうと考えていればふわりと意識は闇に落ちた。



毎年山のようなプレゼントに挨拶をしに来る政府の役人、得意先の夕食の誘いに、パーティまで。さすがにいくつかは断ったがそれでも一日の予定全てがおれの誕生日に関することだ。バタバタと急ぎながらも冷静な顔を装い、仕事を終わらせて時計を見上げたのは短針が九時に差し掛かったところだった。

「ンマー、待たせすぎたな」

革靴にも関わらず地面を蹴りヤガラまで走り出す。八時に帰ると言ったのはおれだから一分でも早く帰らなければ。鍵をがちゃりと刺したあと息を深く吸い、髪を整えた。

「ただいま」

ひんやりと静かな玄関に拍子抜けしながらも部屋を歩いていれば少し開いた寝室。そっと体を入れてみれば穏やかな顔をしている彼女がいた。
起こしてはいけない気がしてベッドに半分乗りかかり、シーツに広がる髪を掬い、指を通したり至る所に口付けてみたり。差し込んだ月の光がまるで舞台のスポットライトみたいだった。

「ん……あいすばーぐさん」
「……なんだ?」
「あいすばーぐさんだ……」

頬を撫でていた手を柔らかい手で掴まれふにふにと遊ばれる。崩れた笑顔を見せたと思った途端目を見開きおでこがぶつかるんじゃないかってスピードで飛び起きる。

「アイスバーグさん!?今何時!」
「九時半だが……」
「よかった……誕生日おめでとう」

おれの短い髪に手を通しへにょっと脱力して笑う彼女に、心臓が小さくなったのかと思うほど脈拍があがるのを感じる。その衝動のままに彼女に口づけた。

「ンマー、それを言うために待っててくれたのか?」
「ん、そう。まにあってよかった」

まだ眠いのか完全に覚醒しきってない目元に口づけながら彼女の笑い声を聞く。

「ケーキもあるし、部屋かざりつけたし、最後の数時間私にも祝わせてね」
「楽しみだ」

「プレゼントもあるよ」と言う彼女はおれを精一杯祝ってくれようとしている。その楽しそうな顔を見ながらそれをぶち壊すように熱くなった瞳を、口づけることで隠した。

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