11/09 ベックマン

忘れてたわけじゃない。これだけは言わせてほしい。三日前から宴続きで酒飲んでは起きて酒飲んで。気づいたら誕生日終わる寸前だった。詳しい時間はわからないけど。

「そんなところで寝てたら踏まれるぞ、酔っ払い」
「わかってる……」

床に寝そべり、ベックの誕生日どうしようと考える。今、島に泊まっているがもう店は空いてない、買えるのはせいぜいお酒ぐらいだろう。考えてるところだから蹴るのだけは勘弁ね。

「どうしたどうした、このヤソップさんに言ってみな」
「……ベックの誕生日何もしてない」
「そんなことか?お前プレゼントやってたからいいだろ」

"やってた"?少しも思い当たる節がなくて頭を傾ければ、「悩むことなくてよかったな」と頭を叩かれもっと悩むことになってしまった。

「ベックー!ベック呼んでこい!お前の女神が泣いてんぞ!」
「は?女神?」

もうわけがわからないことだらけだ。ベックに直接聞けばいいかと体をおこしヤソップに立たせてもらえば、もう来ていたベックが肩を抱いて支えてくれた。

「どうした」
「私、ベックの誕生日忘れてたごめんねって言おうとしたら、ヤソップがもうやっただろって」
「あぁ、 もうもらった」
「私何あげたの?」
「それはおれだけの秘密だ」

唇に人差し指をあて口角をあげるベックに、これは聞いても教えてくれないなと痛む頭をフル回転させ思い出すほうへ集中した。



ずっと宴が続いてる。昨日はおれの誕生日の前夜祭、今日は誕生日の宴、一昨日はしょうもない理由だった。宴は嫌いじゃないが、続くと体調を壊しかねないから夜にだけ顔を出し、昼は仕事をする。今日は誕生日だからって昼からだったが。

「飲め飲め!お前主役だろうが」
「飲んでる。お前こそ飲め」

注がれては注ぎ返し、そんなことを繰り返していればいつの間にか背中に暖かい体温がふってきた。

「べっくー誕生日おめでとー」
「ありがとう」
「そんなべっくにプレゼントでーす」

耳元で聞こえてた声が移動しおれの目の前に座る。彼女は完全に出来上がっていて心配になるが、そんなことお構い無しに寄ってくる。

「ベックの女神の私が祝福をあげる。素敵に歳をとりますように。長生きできますように。見るもの全て手に入れれますように。左腕として船長を支えられますように。……」

一つ一つ願いをこめながら鼻に、こめかみに、瞼に、左腕に口付けられていく。伏せた目と優しい表情は先程までの酔っている姿は演技なのかと思うほどだ。彼女の一挙一動を見逃さないように彼女だけを見つめれば、周りが少し静かになったのも気にならなかった。

「……そして私からの祝福がベックに幸福の雨を降らせますように」

手を掴まれおでこにゆっくりと優しくキスをされ、そこから何かが満たされた気がした。

「はい、おしまい。誕生日おめでとう」
「おれの"女神"がついた航海ほど安心なものはねェな。ありがとう」

未だ目の前で膝立ちする彼女の腰を抱き寄せこめかみにキスする。向こうに見えるヤソップやルゥはわざとらしく嫌な顔をしていて口は「さっさとしけこめ」と動いていた。

「大好きだよべっく〜」
「なァ、女神よ。キスしてもいいか?」
「いいよ」

その言葉を聞いて彼女の喉がさらけ出されるほどに追い込みキスをすれば、彼女の体に薄くドレスのドレープが見えた気がして、一人でひっそりと笑った。
眠たそうな彼女を抱え歩く。明日彼女がこのことを忘れていたら言わないでおこう。言って恥ずかしがってる姿を見るのもいいが、おれだけの秘密にするほうが特別でいい。寝かせた彼女のおでこに同じように口付け、「女神に祝福を。おやすみ」と彼女にだけ聞こえるように囁いた。

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