朝は置き去りに

前の男は気づかなかった髪の毛のアレンジに気づいてくれた。アイシャドウの色も、ネイルの色も変わる度に気づいて、毎回素敵だって褒めてくれる。嬉しくて今まで使ったこと無かった色もラメも使って毎日色んな色にした。それも「おれが褒めたからか?毎日おれのために綺麗にしてくれるなんて男冥利に尽きるな」って言ってくれて毎日眠る時も起きた瞬間も幸せだった。今日はネイルは彼みたいな渋くてスモーキーな色にメイクは大人っぽく。鏡に一度笑って酒場へと向かった。彼はほとんどの場合ここにいる。

ベンさんのいるところを見ると女の子に集まられているのもいつものこと。最初はすごく嫌だったけど、今はちょっと余裕がある。だって手を振ればほら、

「悪いな、ちょっと離れてもらえるか?」
「えーもっと話したい」
「続きが聞きたいー」
「また今度な」

そう言っただけで女の子達は他の人へ散っていった。真っ直ぐと私だけを見てる視線が熱い。導かれるように彼の横に座った。

「〇〇、今日も綺麗だ」

私の手をとって手の甲にキスをしたあとネイルを見つめている。するりとそのまま手を繋がれた。私よりも大きくしっかりした手が熱く私の体温を引き上げていく。

「自惚れじゃなけりゃ、おれの色か?」
「そう。あなたみたいに男前で渋い色でしょう?」
「あァ、いい色だ。おれの印みたいで独り占めしたくなる」

何度か手にキスをする彼はもう酔っているのだろうか。今日はいつもよりも熱烈だ。手は離して、でも肩は触れ合っていつもみたいに話し始めた。




もう何杯か飲んでいい気分になった頃、彼は珍しくグラスを指で叩いて纏う雰囲気が変わった。何か言われるのだろうかと身構える。

「おれたち赤髪は明日島を出ていくことになった」
「え……」
「急で悪いな。だが〇〇に一番に伝えたかった」

この後に続く言葉を聞きたくない。ずっとここでお酒を飲んで話をして笑っていたい。受け入れられなくて彼の袖を握る。そんなことしても彼は止まるわけじゃないけど。

「島にいる間おれに素敵な夜をありがとう」
「まって、」
「お前のことは忘れられそうもない」

それ以上本当に聞きたくなくて、下手な人間みたいに歯をぶつけるようにキスをした。目が丸くなってるから少しは驚いてるらしい。

「出ていくのは明日なんでしょう?なら、今日を一番最高の夜にしてよ。まだ私帰りたくないの」

上目遣いで甘えるように見れば困ったような顔。でもあなたは優しいから選択肢は一つしかないはず。

「……そこまで言われちゃ答えるしかねェな。お嬢さんの一晩をもらっても?」
「ええ、もちろん」

煙草をもみ消す手を見つめていれば近づく彼の顔。身体全てが痺れてダメになってしまいそうなほどのキスを受け止める。嗚呼、私たち最後の夜がくる。少しでも後悔しないように「どこにも行かないで」と周りに聞こえないほどの声で呟いた。

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