履き違えるな

「ごめん、指切った」

ああ、まただ。ごめんなんて思ってもいない顔で指を差し出してくる彼女の手首を握る。これで何度目か。彼女は不注意なのか何なのか知らないが、一日に一回は怪我をしている。だが、言ってくるだけマシなほうで、もっと酷い時ほど何も言わずに放置する。仲間からの報告で救急箱持って彼女の元へ走ったことなんて数え切れない。

「これ昨日火傷したところの上じゃねェか」
「一番使う指だから仕方ない」
「もっと悪化したらどうすんだよ、気をつけろ」
「えー、でもホンゴウが何とかしてくれるでしょ?」

へらへらとなんてことないように言う〇〇にカチンときて、掴んだ手首を引き寄せた。
「あァ、何とかしてやるよ。だがな、おれはそんな頼られ方するために船医になったんじゃねェ。それは信頼とは呼ばねェんだよ。わかるか?」
「……うん、ごめん」
無意識に彼女の顎を掴んで見下ろしていた。そのことに後から気づくほど頭に血が上っている。このまま鼻に噛み付いて怪我させてやろうか。
「怪我しねェように鎖に繋がれて部屋に閉じ込められたくなかったら、次からは気をつけろ」
「うん」
ただの小さな切り傷だったから消毒して絆創膏を上から巻く。このこれだけ小さな傷でも海の上では致命傷になりかねない。それをわかっていないのかと指から顔をあげると〇〇の今までで一番悲しそうな顔。仕方ねェなとため息と共に頭を撫でた。
「次からって言っただろ。次間違えなかったらいいんだよ。毎回怒らねェからちゃんと言え。な?」
「はーい」
もたれかかってきた体を受け止め背中を撫でる。これは甘えてんのかと気づいたが、嫌な訳でもないから撫でる手を止めず彼女の肩に顎を乗せた。

[ 20/50 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -