迎えはいつもあなたの手で

書いても書いても終わらない書類のせいで疲れきった肩と首をバキバキと鳴らす。あの戦争の後地方の基地に飛んだはいいが慣れていない新人が多すぎてまだ思い通りにいかない。今日の訓練も微妙だったし明日は新しいのを混ぜながらもう少し合いそうなのを探すかと肩を叩く。
ふと、冷気を感じた。
冬のような芯まで凍りそうになる冷たさ。なんだと足を止める前に手を這うように氷があがってくる。ピキピキと小さな音をたてて固まっていく氷は肘の下で止まった。殺気も手を潰そうという意思も感じられない。ただ私に気づかせたいだけのような薄い氷がついた手を見つめ、仕方なく表通りよりも街灯がなくもっと暗い脇道へと踏み込んだ。

「よ」
「よ、じゃないよ。放浪者さん」

氷だった時点でそうかなとは思ったが、やっぱり昔の上司が壁にもたれかかって立っていた。相変わらず大きいけど、私の前ではしゃがんでくれるのを忘れてないらしい。でこぴんの一つでもと顔に手を伸ばせば痛々しい火傷の跡が目に入る。噂でしか聞いていないが大怪我は本当なのか。

「もう触れても痛くねェよ」
「でも前は痛かったんでしょ。手袋してるのもそのせい?」

イエスともノーとも言わず無言で自分の手を握った彼を撫でる。今の彼の体のどのくらい火傷しているのだろうか。受けた時死にたいほど、のたうち回るほど、熱かったのではないかと思うと心が苦しくなった。

「〇〇ちゃんにそんな顔させるために来たんじゃないんだけど」
「じゃあ何か用でも?海軍の情報はあげられないよ」
「そんなんじゃないって」

手を広げ私を捕まえるように、囲うようにハグしたと思えば首にかかる吐息。彼の氷を一瞬で溶かしてしまうのではないかというほど熱かった。

「おれとちょっと遊ばねェ?」
「昔、みたいに?」
「そう」

するりと背中にあがってくる手だけでその昔を思い出し体が熱くなる。もう染み付いてしまっているのが腹立たしい。

「じゃあさ、朝までいてくれる?」

凍ったままだった右手の指で彼の素敵な唇を撫で、とんとんと誘うように跳ねさせる。じっとこちらを見る目はゆっくりと下がり食むようにふくまれ舐められた。

「もちろん」

その返事を聞いて唇を寄せれば待ってたと言わんばかりに受け入れられ食われる。きっとこの手だけじゃなくて全部彼に溶かされてしまうのだろう。二年ぶりの彼に喜んでいる脳内を落ち着かせたいのにドーパミンが止まらず、もっとと訴えてくる。その欲望に従うように彼の首に腕をまわせば「〇〇ちゃん愛してる」と甘ったるくて素敵な声で囁かれた。

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