折れたのは、

今日は久しぶりの陸だからってほとんどクローゼットの肥やしになってしまっている服と靴を引っ張り出す。船の上だとぐらつくような高さのヒールをそっと履いて何度も鏡で確認して顔のにやけをおさえた。それくらい大事な宝物の靴だったのに。
もう間に合うのが足しかないのは体に刷り込まれた経験でわかっていた。自分の足が視界にはいり「あ、今日お気に入りの靴なのに」と思うより先に目の前にいる海賊を蹴り飛ばす。それと同時に鈍い音。どうなってるか見なくてもわかる。そのせいで酷く落ちていく気分を男の手のひらを踏んずけることで紛らわすが何も変わらなかった。

高さが違うせいで動きがおかしいからか周りの人が見てるような気がする。でもそんなこと今はどうでもよくて早くベッドに潜り込んでしまいたかった。ただ空を見つめ彷徨わせた目線の先に見えた背中。それが見えた瞬間走りにくいことも忘れて飛びついた。

「、お前か……どうした」
「ヒール、折れちゃった」

さっきまで大丈夫だったのにベックに会ったら涙腺が緩んで涙が出そうになる。ぎゅっと唇を噛んで耐えて彼の胸板に頭を預ければ背中にまわる手。ぽんぽんと慰めるように叩かれたと思うと体を持ち上げられた。

「、え」
「見事に真っ二つだな。誰かを蹴ったりしたのか?」
「島の向こうに止まってる海賊が喧嘩吹っかけてきたから……」

思い出すとまた泣きそうだ。この靴はベックに買ってもらって大切に数回しか履いていないのに。視界にいれるのも嫌でぐっと彼に顔を埋める。

「街に腕のいい靴屋があってな。明日お前の新しい靴でも買おうかと思ってたんだがこれも修理してもらおう。次は折れないように頑丈な素材でな」
「でもつま先も擦れたりしちゃってるし、ボロボロだし」

いつの間にか船の目の前まで来ていて、ゆっくりと私を降ろしてくれる彼を申し訳なさであまり見れず地面を見つめれば髪を撫でられた。

「靴は何度でも直せばいい、それでも気になるなら次からはおれを連れて行ってくれねェか。お前が戦わなくていいようにしてやる」

朝から頑張って整えてくれた頭からつま先まで綺麗なままで船まで送ろう。髪にあった手がするりと指先にまで降りてきて持ち上げられる。そっと口付けられその手は繋がれた。

「ベックはいつもかっこいいなぁ」
「お前が隣にいてくれるからだ」

自分の部屋までの道のりを先程と同じようにひょこひょこと歩くがもうなにも気にならない。明日どんな靴買ってもらおうかな。ヒールは高めで、つま先が丸くなってるのもいいかもしれない。色は買ったことないものにしてみようか。そんなことを考えながら鏡を見てまたにっこりと笑った。

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