変わらない

朝、湯気がたつコーヒーをテーブルに置き紙をめくる。たしぎはいつまでたっても報告書の書き方が微妙だな。カップに手をのばし飲もうとすれば遮られ押しのけられる手。おれの膝の上にのってきたのは昨日おれが帰ってきた時にはいなかった女だった。

「帰るのは今日の朝だったろ」
「昨日部下に無理言って大急ぎで帰ってきたの」
「お得意の職権乱用か」




帰ってきて落ちるように布団に入り寝た私からすればこの時間に起きたことを褒めてほしいくらいだが、そんなこと彼はしないだろう。まあいいかと彼の首に顔を埋めて鼻を押し当て息を吸う。濃く深い煙草の香りと家の柔らかいボディソープの匂いと少しだけ海の匂い。疲れていても彼の香りだけで体の力が抜ける。すりすりと耳の後ろや肩にいったりきたり、彼の短い髪の毛を撫でたり。こんなことしても大抵はまたなんかやってるなと放っておいてくれるから、今も気にせず書類を読んでいるのだろうとより一層抱きつく力を強めれば手が背中をあがってきた。

「珍しい」
「自分の女が上に乗っかってるのを無視するほどできた人間じゃねェからな」

同じように私の首に顔を埋め何度もくちづけたと思えば遠慮なく歯をたてられる。思わず漏れた息は思ってた数倍甘い響きを含んでいた。

「どうする、疲れてるならもう一回寝るか?」
「それ選ばせる気あるの?」

最初からあって無いような選択肢に吹き出して笑ってしまう。何ヶ月も長期で仕事に出ようと帰って来れば必ずいる彼。変わらぬ彼と変わらぬ愛に心底安心する。お互いに求め合うことをやめないまま幸せだと笑えば喉元に噛み付かれた。

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