クロッキーじゃ物足りない
食堂の端で本を読みながらコーヒーを飲む彼の姿を遠目に眺めスケッチする。人が多く見えにくいが描くには十分だった。たまに寄ってきて何してんだ?と覗き込んでくる仲間を手であしらいながらもうすぐ完成というところまで来て目をあげる。
「ここもう少し影を斜めに入れた方がハッキリするぞ、それにここ」
「ここ?」
近くに座っていたヤソップが気になるところを指してきて、素直に頷いて消しては描いてを繰り返した。
「それで?おれはいつまであの椅子に座ってればいい?」
「……びっ、くりした」
必死でヤソップの言葉に耳を傾け描いていれば急に絵のモデルの声が降ってきて、椅子から落ちるところだった。いくら私が集中してるからって気配消して近づくのやめてほしい。私の驚き方に満足したらしく喉で笑っている。
「やっぱり気づいてた?」
「まァあんな熱い視線で見つめられちゃあな。もう完成か?」
「あともうちょっと」
「よかったな。こいつのもうちょっとは一時間だぞ」
本当のことなので何も言えず苦虫を噛み潰したような顔をすれば頭を撫でられた。
「それは困るな。おれは今から仕事なんだが部屋に来るか?礼もしたいしな」
礼の意味がわからないけど、つむじにキスされて「行く!」と即座に返事すればヤソップに呆れられた。
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