星に願いをなんて

あと数分で日は沈む。もう少しでコンクールだからと言ってあまりにも残りすぎた。楽器を肩にかけローファーを履き、外へ歩き出す。昼よりは涼しい。そんなことを疲れた頭で考えながら街灯しかない帰り道を歩いていれば、聞いたことあるような声が前のほうから聞こえた。

「どうしても問三だけわかんねーの」
「授業中寝てるからだろ」
「ロー、ノート見せてくれよ〜」

ローと聞こえ、足を止め回れ右したいが我慢して機械のように淡々と動かす。お互いの顔が認識できる辺りで三人の目線が一気にこっちを向いた。

「あ、〇〇ちゃんこんな遅くまで部活?」
「あと数日でコンクールって言ってたもんな、おつかれ」
「そう、ありがとう。みんなは何してるの?」
「今から流星群見に行くんだ。七夕に流星群ってロマンチックだろ」
「男のみだけどな」
「それは言うな!」

シャチとペンギンが漫才のようにしゃべるのを笑いながら、先程から何も言わないローをそっとばれないように見る。彼はスマホを見ていた。

「あ、いいこと思いついた!〇〇ちゃんも行こうよ」
「いいな、〇〇が良ければだけど」
「いいの?」
「いいよな、ロー」
「構わねェ」

嫌だって言われたらどうしようと勝手に震える手を押さえて尋ねれば、いい返事が得られて気分が昂る。耳赤くないだろうか、とそわそわしながらペンギンと目を合わせれば、ローから見えないほうの目をパチンと軽やかにウインクされた。



「二人とも遅いね」
「あァ」

ペンギンは私の恋路にすごく協力してくれる人で、お昼食べるとき体育祭のとき帰るとき、いつでも声をかけて私をグループに入れてくれる。こんなに何回も会っててこの程度だけど、亀のような歩みで距離を縮めてると思いたい。今も河原についた途端お菓子とジュース買ってくると二人が離脱してローと二人きりになった。

「あ、今日なんの流星群なの?」
「ペルセウス座流星群だ。あと一時間もすれば始まる」
「ヘー!早く二人帰ってこないかな、お腹空いた」

お腹を叩きながらにこにこと笑うが、内心は冷や汗だらだらだった。ちゃんとローとしゃべれてる?もう限界だからペンギン早く帰ってきてと願うがコンビニは少し遠い。次の話題、次の話題と頭をフル回転させる。

「なァ、」
「なに?」
「お前ペンギンのこと好きなんだろ」
「え、」
「安心しろ、あいつもお前に嫌悪の感情は抱いてねェ」

え?え?なんでその方向に話が?フル回転していた頭が急に反対に回ろうとしてぐらぐらする。撤回しなきゃ、早く!その勢いだけで口を開いた。

「あ、ちがっ、私が好きなのはローだよ」
「……」

慌てすぎた……。なにこのベタな展開。黙ったままのローに私の体は冷えていく。早く何か言って、という願いを込めてローの瞳を覗き込んだ。

「そうか」

それだけ言っていつも被っている帽子のつばをさげる。これはフラれる。どうしよう、目の前がぐるぐるして、心がこれ以上の言葉を聞きたくないと叫んでいる。すぐさまこの場を離れたくなり立ち上がった。

「あ、そうだペンギン達荷物多いかもしれないし、迎えに行ってくるね」
「まて〇〇」

逃げるつもりだった腕はローに捕まえられ、彼は焦ったからか帽子がずれていた。帽子に隠れて見えなかった耳が真っ赤で、手が熱い。

「勘違いさせたなら悪い、おれもお前のこと好きだ。あいつらが帰ってくるまではここにいろよ」

勢いよく引っ張られて体が傾く。次の瞬間にはローの腕の中だった。一足遅く理解した私は密着したローの体に心の中で悲鳴をあげる。急にこの距離感は心臓に悪い。無言で抱きしめるローに何も言えなくてそわそわしながらも大人しくしていれば、彼の心臓の音と別にがやがやと遠くのほうで騒ぐ声がする。

「ロー、離れないと」
「いいだろ別に」

背にまわった手を叩いてみるが動こうとしないし、顔はこっちから見えない。というかこんな至近距離で見る自信がない。

「なんだよ、それは俺悪くねェだろ〜」
「お前のせいだろ…あ、やっとくっついたか?」
「やっと?……え、二人そういう仲だったの!おれ知らねェんだけど!」

結局さっきと同じ体勢のままで帰ってきた二人に見られ、シャチなんかは河原中に響くんじゃないかってレベルの大声をあげた。ペンギンはずっとしたり顔だ。

「ペンギンたすけて……」
「ロー、両想い嬉しいのは分かるけど一回離してやれよ。流星群見るんだろ」

ペンギンの注意だからか、舌打ちひとつ鳴らして私をすんなり解放してくれる。私は這うようにペンギンのところまで行きそっと寄った。

「ありがとうね、もしかして短冊に書いてくれたりした?」

七夕に告白成功なんてあまりにもすんなりすぎて、冗談で言えば頭を撫でられる。下から覗いた優しい顔は兄のようですごく安心した。

「短冊どころじゃない、流れ星にも願おうと思ってた」
「なんかごめんね」
「いいんだよ、お前らがくっついてくれれば」

その言葉に嬉しくなり笑えば、また後ろから引っ張られローの足の間に落ち着く。何かと問おうとすれば「来たぞ」と言われ目の端に星が煌めいた。

「うおー!思ってたよりすげーぞ」
「こんなに大量に降るのか」

流れ星に目を奪われるばかりで願い事なんかしてられない。 シャチとペンギンの後ろ姿が何かの絵画の一部に見えるぐらい綺麗だ。興奮のあまりローのほうを振り向いて「すごいね!」と言おうとした。けど、振り向いてみると思ったより顔が近くて体を引こうとすれば、後頭部に手を添えて止められる。しっかり目が合うと悪巧みをするような顔で笑われ口付けられた。私はシャチとペンギンに気づかれるかもとヒヤヒヤしていたのに、口付けられた瞬間に全て吹っ飛びローのことしか考えられない。

「ちょっと、」

「ちょいちょいちょい!おれらの前でなにやってんの!」「いちゃつくのやめろ!」と手を私たちの間に振り下ろしてくるのを避ければシャチはうじうじしていてペンギンたちと一緒になって笑う。まだ一七なのに人生で一番楽しい夏に思えた。
ローに想いを伝えれますようにという願いはもう叶ったから必要ない。その代わりシャチに彼女ができますようにと三回流れ星に願い、星降る夜空の中、私達はもう一度顔を寄せあった。

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