その手を離さずにいて

目が覚めて少し変だなとは思った。暖かめの気候のはずなのに肌寒いし、思考には靄がかかりぼーっとする。まだ寝足りないのかなと思いつつも朝ごはんを食いっぱぐれたくなくて、ベッドから出た。この時間帯、バギーは甲板でニュースクーから受け取った新聞を読んでいるはずだ。一直線に甲板へ出る扉に向かい開けると、青い髪の毛が無造作に結ばれて風に揺れているのが見え横へ並んだ。

「おはよう」
「早いな」

それっきりお互いなにもしゃべらず新聞に目を移す。私は見にくくてバギーの肩に撓垂れ掛かった。するっと腕を絡めると密着する部分が増え、バギーの体温が気持ちいい。寒さで震えそうな体が温まり、「はぁ」と自然と口から漏れた。

「暑っちいな。離れろ」
「えー」
「……お前まさか」

ベタベタしすぎたせいか絡めた腕をべりっと剥がされそうになり、抵抗せずにいると二の腕を掴んだ手の動きが止まった。剥がされるわけでもなく、元に戻されるわけでもない、中途半端なところで止まったままで彼と目を合わせるとみるみるうちに眉間に皺がよった。

「ハデに馬鹿か!」

そう怒鳴られたと思った途端、膝の裏と背中に腕がまわり体が宙に浮いた。走るより体が揺れないし早いと思ったら、足を切り離して飛んでいるらしい。私の部屋はすぐだった。

「そんな体で出歩くとはな!」
「なに?」
「熱出てるだろうが」

優しいとは言えないがベッドに降ろされ布団をかけられた。さっきまで眠たくなかったのに布団に入った瞬間瞼が自然と降りてくる。その狭い視界の中でバギーがどこかへ行こうとしているのが見えて引き止めた。

「いかないで」
「……目閉じてろ」

目の上に温かい手がのりじんわりと温かさが広がる。その手がどこにも行かないようにそっと上から手を重ねた。余計に眠くなってくる。バギーと動かしたはずの口は声になっていただろうか。





ベッドの横に立ち右手で彼女の目を優しく押さえていれば、何かを言ったあと規則正しい寝息を立て始めた。その呼吸を何度か見たあと右腕の肘から下を外す。誰か呼びつけて船医をよこすか。そう思い扉を開け少し声を張った。

「おい、誰かいるか」

バタバタと足音がしてカバジがすぐやってきた。

「どうしました船長、どこかに右腕落としたのですか?」
「ハデに違ェわ!アイツが熱だしやがった。船医呼んでこい」
「分かりました!」

来るときと同じようなバタバタとした足音が去るのを聞きながらベッドに寄る。右手を離そうと動かせば上にのっていた手に握られた。ひっぺがしてもいいが、こいつは寝てるし仕方ないと右手だけバラしそのままにする。
あとはもう、船医の仕事だった。 熱を測って、ただの風邪だと判明したらしく薬を適量サイドテーブルに置く。「起きたら飲ませて」と言い残し彼女をベッドに入れてから30分で事が片付いた。心配させやがってと彼女の頬を人差し指で突いてみるが、頬の形がだらしなく変わるだけで起きることはなかった。





手が暖かかった。体が少し重くて、そう思えば熱が出たときよくお母さんに手を握ってもらっていたなと幼少期を思い出す。そっと目を開ければ青い髪の男の背中が見えた。

「ばぎー」
「起きたか」
「のどかわいた」

そう伝えれば私の机から離れ、真水をコップに汲みに行ってくれるのを見て違和感を覚える。あれ、右手どこにやったのだろうか。

「おら」
「バギー、右手どうしたの」
「はァ?なに馬鹿言ってやがる。お前の手の中だろうが」

起き上がろうとしたとき手を指さされ下を向けば、しっかり両手でバギーの手を包むように握っていた。

「え、あほんとだ。ごめん返すね」
「起きついでに薬も飲め。船医はただの風邪だとよ」
「そっか、心配かけてごめん」

ただの風邪でよかったと思う反面、彼に迷惑をかけてしまったことが申し訳なくて心が沈む。

「ハデに間抜けな顔だな」
「そんな顔してないよ」
「いいや、してる」

人差し指で眉間あたりをグリッと押される。こっちは病人なのに!

「馬鹿とか間抜けとかひどい……あかっぱな」
「あァ!?だれが赤鼻だってェ?……文句言えるなら大丈夫だな」

いつも通りうるさい声をあげて騒いだと思ったらすぐ静かになり、むくれた顔のまま私の頭を数回叩いた。

「まだ寝てろ」

寝転んでもまだバギーは椅子に座っていて目を合わせると「早く寝ろ」とまた手で目を覆われる。その暖かさを感じながら「バギー大好き」と言えば眠りに落ちるその刹那「知ってら、そんなこと」と聞こえた気がした。


[ 38/50 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -