本の虫

今日停泊した島はログ貯めるのに10日かかるらしく貯める間なにか暇つぶしはないかと島の人たちから情報を聞き出す。すでに騒いでるお頭のように三日三晩宴はしたくない。

「あんたはあそこにいる赤髪の人と違って頭良さそうな顔してるな!」
「あの子みたいだな、もしかしてあんたも本の内容一字一句覚えてるタチか」
「おれ"も"?そんなやついるのか」
「いるいる。森の少しはいったところに書庫あるから行ってみろよ」

酔っ払いででろでろの地元民に感謝を述べ酒屋の外へ出る。本を一字一句覚えれる奴、それに書庫にいる。3日ぐらいの時間は潰せるだろうと踏んでさっそく森へと向かった。


少しだけ開いてあった扉を押して入る。入って右にあるドアは開いていて中に見たことある本から、ないのまで本棚に詰まっていた。楽しめそうだと口角が上がる。この部屋があまりにも広いので手間を省くため見聞色の覇気を使えばどうやらここにはおらず向かいの部屋らしい。きっちり閉まった扉に手をかけ開ければ軋んだ音がした。

「ジョン?読み聞かせは終わったわよ」
「……」

女が背を向けて執務室に座っていておれを誰かと間違えてるらしい。何も言えず黙っていれば流石に変だと思ったのか振り返った。

「あら、ごめんなさい。子供たちこの部屋によく来るから。見ない顔ね旅人さん?」
「そうだ。本の内容を一字一句覚えてるやつがいると聞いてな。興味本位で来た。」
「あぁ、それ私のことね。でも一字一句は言い過ぎだわ。だいたいの内容と特に印象に残っている部分を覚えてるだけ」

来てと先程入った部屋に連れていかれる。そして適当に一冊を手に取り表紙を開いてもないのに内容をしゃべり始めた。

「これ読んだことある?」
「あぁ」
「これは少年がマフィアに両親を殺されたところから始まる復讐劇。潜入し、師匠もでき、着実に上にあがって最終的にボスを殺す計画をたてる。『「おれの手が血で汚れて肌が見えなくなろうが、なんだろうがおれはボスを殺せればそれでいい。このゴミ溜めに落ちるだけの蟻地獄から這い上がってやる。」そう決意し、手の中のロザリオを肌にくい込むほど握りしめた。』」
「本当に一字一句覚えてるんだな」

本を開き先程述べたシーンを見れば全く同じだった。感心したという顔をすれば不思議そうな顔をする。

「タネがある、とか疑ったりしないのね」
「アンタ本の虫だろう?本のことを話す顔でわかる。本の虫に悪いやつはいない」

おれの発言に面白いと笑う。大人しく聡明かと思えば笑顔は明るく可憐という印象を受けた。彼女は適役かもしれないとお願いを投げかけた。

「ここにはおれの読んだことのない本もあるんだが、ある本を探してくれねェか。」
「いいわ。どんなものが読みたいか聞かせて」
「炭疽菌についての本だ。本屋にはあまりなくてな。」
「島の本屋ではあまり取り扱わない本ね。読みやすいものかそうじゃないのかどっちがいいかしら?」
「とりあえず読みやすいものを一冊。分厚く読みにくいのはその後にする」

本棚を縫うように歩き、その後も二、三質問され答えればはしごを登って細めの本を何冊か持って戻ってきた。

「これは、論文多めに入ってるけど少し内容が薄いかな。これはとても面白い研究が入ってた、炭疽菌について新しい見解をもつにはおすすめ。これは私のお気に入りなのぜひ読んで欲しい」
「ありがとう。」

おれの腕に積み上がった本は読んだことのないものばかりで有益な時間だったと口角があがる。すぐにでも読みたいがもう夕方だ。ここは閉めなければいけないだろうし、と思案していれば本を優しく撫でられた。

「持って行っていいわ。島出る前に返しに来てくれればいいから」
「おれがこのまま持って逃げるとは考えないのか?」
「本の虫に悪い人はいないんでしょう?」

微笑む彼女に面食らい、そうだったなと笑った。
礼を述べ、別れたあと口に手を持って行って気づいた煙草を咥えてない。書庫に入る前からだから4時間ぐらいだろうかかなりの間吸っていなかった。夢中になりすぎると禁煙できるものなんだなと笑えてくる。思い出すと口寂しくなり煙草を咥えるが本に匂いが移るのはいけないと火をつける手を止めて船への道のりをゆっくり歩き始めた。

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