雨の中君想う

雨は怖いというと「え?」という顔をされる。「雷じゃなくて?」の質問はもう30回は聞いた。幼いときからこうだが未だに怖くなくなる兆しがない。雨は細かくてたくさん降る。その音がまるで私に一斉に近づいて覆いかぶさろうしているみたい。それに、薄暗くなる空も不気味で怖さを倍増させている。
今夜も土砂降りの雨だった。



「サンジくん、」
「どうしたの、寝れない?今ホットミ」
「違うの寝れないは寝れないんだけど、」

頭にはてなを浮かべたサンジくんに何十回目かわからない雨が怖い話をした。

「そっか、ナミさんもロビンちゃんも起こしたくない?」
「うん。だからここで寝させてくれない?」
「え!」
「他の音がすると安心するの。仕込みが終わるまででいいから」
「だめだよ、レディがこんなところで寝たら」

困ったように眉を下げたサンジくんを見て困らせてるなと悲しくなる。けど、一晩徹夜するか、少しでもここで寝るかどちらかと言われれば後者だ。お願いと何度も頼めば、他の策はないこと、私が意地でもここから離れないことがわかったのか折れてくれた。

「わかった、おれが仕込みする間だけだよ」
「ありがとう」

そうして、具材を切る音、鍋で何かを煮込む音、キッチンから発せられる音全てに耳を傾け深呼吸する。
あとはもう覚えてない。朝起きたら女部屋にいてナミに聞けば「サンジくんが運んできてくれたわよ、どこで寝てたのよ」と逆に問い詰められそうになり慌てて嘘を並べて逃げた。
そうやって雨の日がくれば何度も何度もサンジくんを訪ねた。3回目ぐらいまでは「こんなところで寝かせたくないなぁ」と言われていたがその後は枕やソファを新しくしてくれたり、冬島なら毛布を多めに持ってきてくれたり、と私が寝やすいように改造を施すようになった。「こんなことまでさせてごめんね」と謝る度「君は謝らないで、おれが好きでやってるんだから」と頭を撫でられ「ありがとう」しか言えなくなる。
もう何十回とこんな夜を過ごし、これからもずっとこの関係は続いていくと思ってた。





サンジくんはヴィンスモークの一族、サンジくんは結婚する、サンジくんは、船を降りる。どれを考えても現実じゃないような気がして笑い飛ばしたいけど、全て事実でサンジくんはもうここにいない。心に出来た5mmほどの穴が徐々に広がっていく。それでも、サンジくんを連れ戻すためにこの船はホールケーキアイランドへ向かっていて、集中するために穴に気付かないふりをした。

今夜は小雨
色々と理由をつけて、ナミに手を繋いで抱きしめてもらって寝た。こんな子供みたいなこと恥ずかしいけど、寝れないのは嫌で顔を真っ赤にしながら頼んだ。途中から言い訳を述べる私を見て楽しんでいたような気がする。 熟睡とはいかないが少しは寝れて頭がすっきりした。
起きたら豪雨だった。進路が逸れないよう舵を操作し、帆を閉じる。何人かで交代しながら船を運び、私が休憩してきなさいと言われたのは、朝と明るさはさほど変わらないが夜だった。寝れるわけがないこんな叩きつけるような雨音のなか。でも、今頑張ってくれてるチョッパーやブルックを休ませるためにも少しでも体力を回復しなきゃ。そんなことを考えながら船のドアを開ければキッチンだった。無意識にここに来たらしい。私のためにふわふわになったソファに寝転ぶ。今にもじゃがいもを切る音が、野菜を炒める音が聞こえそうだった。
濡れたまま寝たらだめだよって怒られるかな。
そんな毛布1枚じゃだめだよって毛布持ってきてくれるかな。
どれも、どの音もいつまで経っても聞こえてこなくて耳に突き刺さるのは雨の音だけ。サンジくん早く戻ってきてよ、私もうサンジくんがいないと寝れないの。体力を回復することも忘れて、ただただ嗚咽を漏らす。穴はいつの間にか巨大化していたらしい。この穴は私にはどうにも出来なくて、交代が来るまで、都合の良い幻覚が私を寝かせてくれないかと縋り泣き続けた。

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