王か犯罪者か

疲れが体にのしかかりベッドから起き上がれない。横の彼と言葉を交わすことなくランプの淡い光を見つめていれば葉巻に火をつける音が響いた。いつもなら疲れていてそのまま寝るがゆっくり体を起こし服を身につけていく。

「お前に夜の予定があるとはな」
「私だって人間だからね」

靴を履き身だしなみを少し整え扉に向かう。ドアノブを握ってそう言えばと思い出したように振り向いた。

「金で女の子好きなだけ選べるんだからそろそろ私にするのやめたら?」
「あ?」

そう言い扉を引いて廊下に出るつもりだったのに扉はビクともしない。それどころか隣に砂がぱらぱらと落ち、やっぱりかと手から砂で形成されていく彼を見上げる。

「おれが仕方なしに、お前を抱いてると思ってるのか。」
「そうじゃないって知ってるからやめたらって言ってるの」

扉と彼に挟まれた状態で目を合わすと眉間に皺が寄っているのが見えて笑えてきそうになる。

「私、国の英雄様と付き合いたくないの。女の嫉妬やら僻みは面倒だし英雄の女って目で見られたくないしね。」

そこで一度言葉を切り彼の首に腕をまわす。眉間の皺は消えてないが、私の動きを遮る気はないらしくじっと私を見つめている。

「だからさ、英雄じゃなくなったら迎えに来てよ。クロコダイル」

そう言い終わると彼の扉を押さえてる手を殴る。そんなに力はないが砂にすることはできるだろう。押さえられる力がなくなった扉を一気に引き廊下に飛び出た。上裸だったから追いかけてはこないだろう。廊下を走りながら何年後になるかなと瞼の裏に彼の顔を焼き付けた。

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