煙のキスに溺れて

船の手すりに寄りかかり煙草を吸うベックの横に立ち、私も彼と銘柄の違う煙草を取り出す。何度かライターを鳴らし火をつければ、彼の煙草より甘い香りが肺に満たされた。

「好きだな、それ」
「私の命綱だからね。これさえあれば生きていける」

私は甘い煙草が好きで彼のようなきついのは好きじゃない。そんな甘いのが好きじゃない彼が前にいて悪戯を思いついた。彼にたんまりと味わってもらおうと煙を深く吸い込んだあと、彼の顔優しくに吹きかける。命中。眉を潜める彼にしてやったりの顔を浮かべようとすれば彼からも息が吐き出された。その光景がスローモーションのようになり、私から吐き出された煙と彼から吐き出された煙がゆっくり絡み合い、ひとつの煙になっていくのがわかる。その白い煙越しに彼の真剣な眼差しが見え、私の世界は煙と煙越しの彼だけになった。息を吸えば甘いか苦いかわからない香りに体をじくじくと侵され、煙でよくわからない彼の目の中を覗けば覗くほど深みに嵌って体の感覚全てが麻痺していく。体温が急激にあがりくらくらとする中、彼の口角が少し上がったのを見て何かに引き戻された。ほんの何秒かの時間だっただろうに何分にも感じられて瞬きを繰り返す。そんな私に手を伸ばし熱い頬を撫でてくる彼の顔を見れば優しく笑っていた。

「この後時間あるか?」
「酒に酔ったお頭に邪魔されなきゃね」

頬を撫でていた手が肩にまわりエスコートするように引き寄せられれば彼の部屋に向かうために手すりで煙を揉み消した。

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