二人遊び

 プライベートの時間に入っても、結局俺は手を動かし続けてばかりだ。
 造花が存在しないこの石の世界では、懐に詰めた花びらは早いうちに消費しないといけない。すなわち仕込みもまめに行わなければならないということで。
 真珠ちゃんはそうして視線を落とす俺に気を揉むことはない。その日の気分の距離を保ちながら会話に応じてくれる。今日は…うん、最短かな。斜め後ろに控え、時々何故か背骨の終わりの腰を撫でている。
 正直そわそわしちゃうけど、そういう雰囲気にさせたい手つきでもないんだよなあ。

「これで終わりだからねえ〜、もうちょっとだけ待ってねえ〜」

 急いで袋の口を紐で締め、俺は彼女を胸元に抱き寄せた。

「お待たせ!ん〜っぎゅっぎゅ〜♪」
「……」
「どしたの、腰なでなでしてきて。やらしー雰囲気にさせたいの?」
「細かい作業は腰にくるって言ってたから」
「そっかあ、覚えててくれたんだ。真珠ちゃんの手当てはよく効くもんね」
「……」
「あらら、おねむ?横になる?」
「んん…」

 まぶたを下ろし、それでも首を振って俺にすり寄る真珠ちゃん。きゅーんと胸が収縮するのを感じながら、彼女をしっかりと支え直した。
 程なく小さな寝息が聞こえ始め、寄りかかる重みが一気に増した。真正面から受け止めて、ゆらゆら体を前後に動かす。
 あぁ幸せ。きっと俺が今世界で一番の幸せを噛みしめてる。大好きな子の全部を委ねてもらって、こうやって鼻先を頭のてっぺんにくっつけて…あー、身体の内側も真珠ちゃんで満たされていく…。
 すう、はあ。本人が嫌がるので表立ってなかなか出来ないのだけど、俺は彼女の匂いを嗅ぐことに執心してしまっている。もちろん臭う訳ないよ?ゼロ距離でやっと味わえるこの特別感にメロメロになっちゃってるってこと。

「…あ〜…ここまでじっくり吸えるの滅多にないから…んー…んんー……ん〜バイヤー…」

 …勃っちゃった。いや…うん…仕方ないでしょ、さっきまで腰さすさすされてたんだもん。
 すう…はあ。ん、ダメ、このまま収まりそうにない。

「……真珠ちゃん…いい?今シても…」
「……」

 あ〜、もう。何とでもなる。気持ちいいの追っちゃえ。
 俺は夢の中の彼女と向かい合う形で寝転がり、不自然に膨らむズボンの中へ右手を突っ込んだ。

「ん…」

 きゅっと包めば意識外に色んなところが跳ねる。膝から下を動かし、瞳を閉じる彼女に近づく。一旦両手を自由にし、左の二の腕を彼女の枕にするよう抱き込んだ。

「……ん…」
「真珠ちゃん…好き。好きすぎて、俺こんなのになっちゃったよ…」

 すう、はあ。これまで生まれていなかったはずの悪寒がぞわぞわと体中を巡り、元々細い理性やら倫理やらの糸がぷつぷつと切れていた。
 …あのね、ここだけの話ね。こんなことしても大丈夫だって分かってるから、突き進んじゃうんだからね。

「…あー…真珠ちゃん、大好き。…ん……ん、一人できもちい…あぁ…」

 勝手に興奮して、勝手に出来上がって。ぷくりと湧き出た先走りを指にまとわせ、握れる程膨張した中心を焦らしながら慰める。この背徳的なシチュエーションをより堪能したい。そう考えながら。

「ふ……ぅん……ん…」
「…うるさい…」
「やぁん、そんなこと言わないで…」
「何…?」
「ん?…えへ、一人遊び…ねんねしてた真珠ちゃんが可愛くて、つい」

 まあ当然起こしちゃうよね。何だろね、こんな状況の中目覚めても平然としている真珠ちゃんの胆力にまた一層堕ちてしまう。
 どこかで気がついたんだろうけど、ここまで黙ってたってことは、こんな変態な俺を許してくれてるってことでしょ。あぁ、好き。
 背中と脳ミソがぞくぞく、ビリビリする。ここに外からの刺激も与えたらどうなっちゃうの、俺、あぁ。

「ね、ね、続きしていい?いい?」
「いいけど」
「ありがとっ……んっ、ん……あー、うー、真珠ちゃんがいるのに一人できもちい…許して…」
「早くして…」
「あぁん、責めないでよぉ…また新しいこと覚えちゃう♪」
「知らない…」
「……あー……ジーマーでバイヤー…っ…!真珠ちゃん、真珠ちゃん、見て、俺の顔…っ」

 顎を動かした彼女の瞳に至近距離でぶつかった。眠気に抗い薄くだけ開いた眼差しは、それでもちゃんと熱を帯びている。こんな俺に引いていなくて、もっと言ってしまえば、こんなプレイに付き合ってくれている。受け入れられている。
 あーダメ、嬉しくなっちゃう。

「真珠ちゃん、好きだよっ、えっちな俺、見ててっ…」
「…うん」
「っ、ん、うぐ…」
「…!」

 下に敷いた左腕を動かし、彼女の頭を固定して鼻を寄せる。ひと際大きく息を吸い込んで、俺は俺を追い詰めた。

「んんん、あっ、イく、イっ……うぅっ…!」

 最初にさすられた部分に電流が走り、それまでと別物のぬめりを吐き出した。ぬちゅり、ぬちゅりと水音が響く。はふはふと息を継ぐ俺の声が重なる。真珠ちゃんはじっと耐えている。

「…ふう……はぁー…あー、バイヤー…」
「…見えなかった」
「ホントだねえ…次でいい…?」
「……」
「…はぁ……はは…メンゴ、一人で盛り上がっちゃった…」
「別に…眠いし、無理矢理されたらいやだし」
「んーっ、真珠ちゃんのその動じないとこ、ジーマーで最高、好き。次はちゃんと二人でしようね…」

 ちゅっと頬にキスを落とし、彼女を解放した。右手を見せないよう上手く隠しながら、起き上がって笑いかける。

「後始末してくるからね、待たなくていいよ」

 そうしてそそくさと洗い場へ移動し、汚れた箇所を清めていった。
 …ノーマルじゃないシチュエーションが嫌いだと言えば嘘になる。いや、匂いの件もそうだけど、さっきのように見守られて一人致すのも、彼女と番うことになって…というか、石の世界で生きる今だからこそ目覚めた趣味の一つなんじゃないかと思う。
 だって、いくら好き同士の夫婦の間柄であっても、ムラムラきたら何でも合体、という訳にはいかないのだから。中に挿れなくてもお互い満足出来るよう、様々な付加価値を求めているような気がする。多分。
 そんな理由?言い訳?を考えつつ自室へ戻ると、真珠ちゃんは布団代わりの麻布を被らず横たわっていた。隣に並び、肘をついて顔を覗き込む。視線に気づいた彼女が目を合わす。

「付き合ってくれてありがと。ゴイスーよかった」
「…ゲン」
「なあに?」
「…次、じゃなくて…」
「うん」
「……今…」
「いいよぉもちろん」

 なんてことはないと笑ってあげる。彼女の力みが目に見えて取れた。

「さっきの俺みたいに抱っこされながら自分でしてみる?」
「ゲンがいい…」
「んっ、かーわい…。じゃあゆっくり触ってあげるね、おいで」

 後ろから抱きしめて、しばらく指を絡めてからご所望の場所を目指した。指二本を下着の上から柔らかな割れ目へふにっと乗せる。少しだけ間を開け、腰が揺れ出す前にまずは前後へ動かした。

「ん…」
「リラックスリラックス…寝ちゃってもいいからねえ…」

 芽はきっとここ。人差し指の腹でとんとんとつつく。真珠ちゃんはほとんど声を上げず、時折思い出したように控えめに身をくねらせている。分かるよ、寝落ちの狭間でもう一方の欲を求める贅沢。今夜はそれで満たされようね。
 敏感な突起も含めて再度指で覆い、そのままくりくりと左右に刺激した。ぴくん、と明らかに異なる反応を示され、続けると腰が浮いてきた。

「ん、ぅ…」
「そうそう、上手…このままぴったり、くりくりしたげるからね」
「っふぅ…」

 突き出して柔肉を押し込まれ、引いて少し休憩して。真珠ちゃんは無意識に自分で調節しながら高みへ昇ろうとしている。
 俺の胸はきゅんきゅんと甘く鳴りっぱなしだ。好きな子が乱れる姿をこうしてシラフ状態で見守るのって、快楽とは違う類の気持ちよさがある。だから真珠ちゃんもいつも乗ってくれるのかな。

「真珠ちゃん、可愛い…。イきたくなったら手、触って。も少し強くするから…」
「っ…」

 ためらわずに伝えたことを実行され、多少愚息に熱が回ったのを冷静に受け止めながら、俺は愛しい衝動に従い笑っていた。
 抱擁の力を強め、背筋と首筋を丸めて彼女の耳元に唇を添える。のけ反っても逃がさないよう、念入りに位置を確かめ足先を絡めていく。
 もぞもぞ、予想通り、甘い拘束に囚われ彼女の感度がまた一段と増している。小さな耳穴の奥にある鼓膜に向かってとびきり甘い囁きを流し込んであげる。

「イって、真珠ちゃん、俺の指で」
「っん!……っ……!!」
「ふーーっ…」
「ふあぁっ…あっあっ…」

 ひくひく、ひくん。緩やかに迎えた絶頂に合わせ、真珠ちゃんが小さく小さく痙攣した。追い打ちで細い息を吹き込むと、悩ましげに顎を反らしてその姿勢から動けなくなった。
 くにくに、くりくりと熟れ切ったそこになお優しく触れ続け、余韻まで降りてくるのを先送りにしてあげる(普段のセックスでこれやるのは厳禁ね)。やがて彼女が首を振って許しを求めたので、そこで俺は労う手つきに切り替え、ぐったり力の抜けた身体を改めて抱き寄せた。

「…はぁ…ふぅ…」
「ふふ、お疲れ様…ゴイスー可愛かったよ」
「……」
「あんだけささやかでも女の子ってイけちゃうんだもんねえ…その後も長く出来たねえ」
「…しつこかった…」
「えー?大丈夫そうな分だけのつもりだったけど、つらかった?」
「最後だけ、少し…」
「メンゴ、気をつける。痛いのはない?」
「ん…怒って、ない…」
「うん、ありがとね。んじゃ、お片付けしよっか。腰上げれる?」
「いい…寝る…」

 うん?いいのかな。下着は脱いでないからそこまでの汚れにはならないのかな。まあ、一度眠りを妨げた立場なので従おう。
 真珠ちゃんを仰向けに整え、寝具を掛けてから、額におやすみのキスを長く贈った。反応はもう返ってこなかったけど、それでも俺の胸は軽やかで、きゅんと甘い物体でいっぱいに満たされた。






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