HAVE A LOVELY DAY!

「誕生日おめでとう、ゲン」
「ありがとね、ゴイスー嬉しい!」
「……プレゼント」
「うん」
「何がいいか分かんなくて、相談して」
「うん」
「"プレゼントは私"って言えばいいよって…でも」
「ふふ、うん」
「もうあげてるし、年に一日だけのつもりもないし、でも」
「……」
「言った方がいい?」
「お願いするしかないじゃんそんなの」

 がしりと両肩を固定し切実に迫れば、真珠ちゃんはずいぶん目を丸くして驚いていた。

「…じゃあ、"プレゼントは私"」
「ありがとーっ!サイッコー百点満点!いっただっきまーす!」
「んん!?……ちょっ、ゲ、んむ」

 彼女の両手は本来の贈り物を乗せているので抵抗は不可能だ。最初こそ勢いをつけて抱き込んでいたけど、背を撫で頭を撫で徐々に落ち着かせ、最後に顔を大きく傾けて長く吸い、鼻先がくっつきそうな距離で少しの間黙って見つめ合った。

「……」
「…ちょうだい?もひとつオマケに」

 ちゅ。
 むすっと照れた表情の彼女がにらんでくる。

「ごちそうさま♪美味しいねえ、特別な日の特別な味付け」
「そう?」
「それで、そっちももらっちゃっていいのかなー?」
「ああ、はい、どうぞ」

 彼女が用意してくれたのは、染色した縄紐をリボンとし、蝶々結びで飾りつけた大ぶりの貝殻だった。村ならではの容器に心を温めながらゆっくりと紐を解いていく。敷紙代わりの葉っぱの上に、小さな薄茶色の長方形が並んで積まれている。

「…もしかして、キャラメル?これ」
「そんな名前」
「うわー…ゴイスー、こんなのまで作れちゃうんだ、もう…」
「ちょっと大変だった」
「うんうん、手間かかったよねえ。ありがとね、一緒に食べようね」
「あなたにあげたのに」
「一緒だと幸せ二倍だよ」
「…ん」

 笑いかけてから柔らかいほっぺたに唇を寄せると、自然に受け取ってくれた。

「それで」
「うん」
「ゲンでも美味しいって思えたら」
「100億%美味しいに決まってんでしょ」
「聞いて。美味しかったら、たくさん作ってドラゴをもらって」
「えっ!?」
「ゲンにあげるから、買って、石油」
「待っ……いや…それは………こ、酷なことを言いなさる…」
「?」

 差し出せと!?俺を想って頑張ってくれたこの無二の甘味を!
 逃せと!?またとないこのビジネスチャンスを!
 無碍にしろと!?可愛い可愛い真珠ちゃんのこの献身を!

「うお、おぉ〜〜〜…あ〜〜〜〜……」
「……」
「…つ、作ってくれる…?俺専用のフレーバー、味を…一つ…」
「味?どんな?」
「えっと、そう!お塩足すの!塩キャラメル!」
「分かった。フランソワに相談してみる」
「うん、それでいこう、それが落としどころ」
「なに?」
「こっちの話だからだいじょぶ。でね、ちょーっとお行儀悪いけどね、今日だけだから、やってほしいことあるんだけど」
「そう、いいよ」
「じゃあ、あーん。これ端っこの方だけ噛んで、じっと出来る?」
「…ん…?」
「そうそう、ついでに目閉じてみて?」

 キャラメルを前歯で挟み、まぶたを下ろした彼女の顎の角度を調節する。あぁ、キス待ち顔ってやつだ。色んな人に責められそうだけど、この日、二人だけの今これきりだから、大目に見てもらいたい。

「いただきます」

 唇ごと覆い被さってから、反対側を噛んで引き抜き、頬の奥で溶かした。

「あー、懐かしい味だ…ジーマーで美味しいよ」
「……」
「怒んないでくれると有難いな〜…」
「…まあ…特別」
「ありがと!はい、今度こそあーん」
「いい…今は…」

 どういう意図でこんなことをされたのか理解したらしく、真珠ちゃんはすっかりうつむいてしまった。その姿がまた唆られるもので、俺は可愛いと連呼しながら彼女が怒り出す限界までつむじにキスを落とし続けたのだった。






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