原点

 小学校時代のお友達、幻くん。
 何がきっかけで仲良くなったかはとうに忘れたけど、新しいマジックを覚える度に披露してくれて、たくさんたくさん笑わせてくれた。
 中学校時代の遠い人気者、浅霧くん。
 ありきたりな理由。クラスが別れて、存在感を放つ彼は私以外の人々に囲まれた。
 それからは知らない人、あさぎりゲン。
 いつしか芸能人としてテレビで見るようになって、大好きなことで成功してよかったねと思う反面、あの頃のきらきらした瞳はどこに消えたんだろう、なんて。彼は一足先に、大人ばかりの世界で大人にならざるを得なかっただけなのに。

*

「おはよ」
「……ごめん、寝てた」
「いいよ、休憩中じゃん」
「夢…見てた…」
「どんなー?」
「…走馬燈?」
「え、バイヤー、戻ってきてよかったね」
「……」
「どしたの?ここはちゃーんと現世よ?」
「きらきらしてる…」
「だから現世だってば〜。俺お迎えの天使サマじゃないよ〜」
「知ってる…ふわあ。じゃあ、続きやりますか」

 とても…とても久々に再会した彼は瞳の輝きを取り戻していた。世界の滅亡と引き換えに。いや、別にこの人が原因じゃないんだけど。
 謎の緑の光、全人類の石化。彼は復興の最初期に目覚め、ものすごく貢献して、褒賞として個人的な理由で手元に置く人材を選ぶ権利を得た。その対象が私という訳。
 もちろん何でって聞いたけど、あの頃と同じ金ぴかの紙吹雪とスポットライト代わりの懐中電灯と瞬く星を全部突っ込んだ煌めきをもう一度私に向け、"俺の原点に会いたかった"なんて答えたもんだから、私も理屈抜きで納得して、ついでにこのまだまだまっさらな石の世界で彼と共に生きていいかと思ったのだった。

「ねえ、幻くん」
「んー?」
「この先世界があの時代と同じまで戻っても、その目はもう暗くならない?」
「そーね。光源がそばにいて褒めてくれる限りね」
「責任重大だなあ」
「そゆこと。んふふ、これからもシクヨロね、俺の生き様を決定づけた人」

 にい、と、彼が眼差しだけは無垢なまま、歪んで熱っぽく、大人しか作れない笑顔になった。






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