あなたの声

 あなたの声はいつだって大きくて、どこまでも通る。生来の質がそういうもので、あなたもそんな自分を好いているから。
 初めて私にうるさいと言われた時は、心底理解が及ばない顔をしていた。私が心底本音だと知ると、あなたは(私から見れば)とても不服そうに、それでも自身を曲げてみせた。
 それからたくさんの日々を滑稽なステップで踏み越えていって…あなたの声は、何だか気の毒になる程しぼんでしまった。
 …"しまった"?私はあのやかましい方の彼が恋しくなったのかしら?ないものねだりってやつなのかしら。

「…無理しなくていいのよ。流石に今日は疲れてるでしょう」
「貴様と言葉を交わさず一日を終えたくない」
「ならいいけど」

 それでもどうにも眠気に抗えないようで、真正面の彼は大きな背を丸め、私の肩口を枕にして動きを止めた。長い金の髪と細い息が皮膚表面の神経をくすぐる。

「ちょっと、崩れたらシャレになんないわ。選んで、膝か本物か」
「何の話だ…?」
「あー、枕」
「フゥン…貴様に寝不足を強いる訳にはいかんな。後者だ」

 顔を上げ、ついでに前髪をかき上げ、彼が私を引き連れて寝床に転がった。横を向いて胸元をぽふぽふ叩いてやると、首を傾け虚ろな目つきで一つ笑んだ。
 これだけでも独占欲は恐ろしく満たされるのだけど、世界一強欲なあなたに感化され、私はまだまだ望んでしまう。

「明日は落ち着けそう?」
「皆の士気も高い…今のうちに一気に片をつけるべきだろう…」
「そう。やることが無限に湧いて大変ね、造船ってのは。私も微力ながら頑張るわ」
「期待、している…」
「……」
「……」
「……おやすみ」
「………まだ…撫でてくれ……」

 そう、これ。常に覇気を放つ"七海龍水"からは想像もつかない吐息にまみれたこの囁き。私が引き出してしまった。いいえ、きっと、無だったのに私が作らせてしまった。
 あぁ、私は早くも欲しいの行き着く果てを知ってしまったのだ。

「ええ…お安い御用」

 私は穏やかな夜更けに似つかわしくない悪寒を全身で感じながら、半人分近づき後頭部目指して腕を伸ばした。






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