GOOD NIGHT

「せんく〜〜いい加減終わりにしなよ〜〜」
「おー」
「倒れても知らないからね」
「おー」
「マグマ辺りに言いつけて絞めてもらうよ」
「おー」
「キスしていーい?」
「あ゙ぁ」
「ほら疲れてんじゃん」

 初めて千空が図面から顔を上げ、私の方を向いた。

「ドーパミン放出させろ」
「えっ、何?シモの単語?いよいよやばくない?」
「違っげえ!神経伝達物質!超絶死ぬ程ざっくり言うと人間の感情起伏の原理の一つ!」
「ふ、ふーん」
「引くな!マジで!」
「分かった、分かったから」

 息を荒げ、思わず立ち上がっていたことにやっと気づいて彼はどんと椅子に座り直した。
 私は壁にもたれていた姿勢を正し、組んだ腕を下ろす。彼の真後ろまで歩み、肩を何度かごく軽く打った。

「ね、ホント今日はもう休もう?私も眠いよ」
「……」

 一度ががっと叫んで頭が冷えたみたいだ。彼は黙ったまま机に広がる図面を一つに重ね、裏返して息をつき、私と向かい合った。

「お疲れ様」
「……守れよ、約束」
「え?…ああ、おでこならいいよ」
「あ゙?」
「おやすみの挨拶。そうでしょ?」

 納得いったのかいかないのか、眉間に皺は寄っているが、彼は了承して頭を少し下げる。
 ちゅ、と開けた額に唇を落とした。

「千空も」
「ん」
「…ふふ、じゃあまたあし…」

 締めの言葉を言い終わる前にぐっと両肩を掴まれ、彼の顔が傾き、視界が陰った。
 重なった場所から全身へ熱が広がっていく。…間違いなく今感情が揺さぶられているけれど、これが、ドーパミンとやらが私の中で作られて、どこか?体の外へ?出ていったってことなの?
 ううん、もっと単純に、好きな人に不意打ちのキスをされたからだよ。

「……目、冴えたんだけど。明日寝坊したら千空のせいだから」
「ククク、許してやらあ」
「……」

 この尊大ないつもの態度に何だかとっても苛立ちを覚えたので、私は彼のすねをひと蹴りし、反応も見ないまま自室までの闇夜を駆けたのだった。






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