芒果

 集会から戻った龍水は、果物の乗ったかごを持ち帰っていた。
 ここはいわゆる南国に相当する島。見覚えのある懐かしいそれに私は声を上げた。

「マンゴー。美味しそう」
「島の者が分けてくれた。明日フランソワに調理を頼むつもりだが…」
「今そのまま食べたいわ。いいじゃない、手で剥いても」
「そうか、分かった」

 腰を下ろし、皮に手をかけながら彼が何やら思案している。黙って見守ると、考えがまとまったのか顔を上げ切り出した。

「無礼と不作法を承知で言うが」
「どうぞ」
「貴様に手ずから食わせてみたい」
「…?……ああ、あーんしろって?まあ、やってみたいなら構わないわよ」

 なかなか珍しい申し出だ。彼の好奇心に応えるべく、私は二つ返事で唇を開き待ちの体勢を取った。

「……」
「……」
「…早く」
「あ、ああ」

 本当は包丁で切り目を入れるべき果実。龍水の太い指が苦戦して端を毟る。
 小さな欠片が運ばれてくる。私はつるりと落ちやしないか内心ひやひやしつつ、自分から顔を近づけ構えた。
 彼の経験が無い上に、そもそもずいぶんな難易度のものなのだ。口内に指まで侵入してきてお互い驚いたが、実を吸い込むと同時に後ろに引き外へ出してやった。

「ん、美味しい」
「……」
「感想は?」
「謎の背徳感を味わっている」
「そう。では私からもアドバイスを。汁気の多い果物は全く適さないわね。背徳感って、こういうことでしょう?」

 わざと分かりやすく大げさに、唇から垂れた汁を人差し指で拭い口に含めば明らかに動揺した表情になった。

「ちなみにもう少し恋愛脳ならそこを舐めてあげるか舐めさせるのだけど、いかが?」
「…遠慮しておこう」

 行儀の悪さ、そして私の反面教師的指導の両方に苦笑して彼が力を抜く。私もくすくすと笑いを返していた。

「あなたのその育ちの良さ、好きよ。はいお水」
「俺も状況によっては指ぐらい舐めるぞ?」
「あっは、どう振舞おうと失望なんてしないわよ。ねえ、その残りはあなたが食べるでしょう?もう一つを私にちょうだい」
「ああ」
「……やっぱり明日にしようかしら」
「何故だ?流石にこれを半分には出来んぞ?」
「すすっちゃいそう」
「はっはー!構わん!何故なら俺も同様の懸念があるからだ!」
「ホントあなたって出来た男よね…」






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