からあげと玉子焼き

「あれ、めずらし。大木たちいないなんて」
「大樹は委員会の奴らと、杠は手芸部の奴らと食うと」
「そっか。おじゃましまーす」

 いつからか、水曜日の昼休みは化学室横の準備室でお弁当を食べるようになった。
 今日は一人の石神が、分厚い本を読みながら片手で惣菜パンの袋を掴み、少ない中身を出口まで持っていって口に入れた。

「石神ぃ、本読みながら食べるのはお行儀悪いよー」
「これで最後だから問題ねえ」
「え、これだけなの?少なくない?OLでもあと一品汁物付くよ?」
「いやどこ情報だよ」

 それきり黙って本に集中し始める。食べ進めながらしばらく様子をうかがったが、そのうち思い付き、私はお箸の上下をひっくり返し、おかずを一つ挟んで彼の唇のすぐ横まで持っていった。

「…からあげあげる〜」
「……」

 ずい、とさらに近づけたらばくり。

「おっ」
「…!」
「こらこら出そうとするな!」
「……」
「…石神って案外甘やかされてるし、甘やかされるの好きだよね」
「うっせ…!」
「他もいる?」
「無くなんだろが、テメーの分」
「いやー、ぶっちゃけ多いんだよね…つい家族の分と一緒にわーって詰めちゃって」
「…テメーが作ってんのか?」
「八割冷凍でーす」
「ククク、文明様々、上等だ」
「ね」

 軽く笑い合った後、彼はしおりを挟んで本を閉じ、私のお弁当箱をじいと見つめ出した。少ししてから玉子焼きを選び、素手で持ち上げ一口で食べた。

「!素材勝負…?」
「ああ、ウチ味付けしない派なの、他が濃いから。でもいいでしょ?」
「あ゙ぁ、ごちそうさん」

 ぺろ、と指先をわずかに舐めて唇の端を上げる。それからズボンのポケットからハンカチを出し、両手とも綺麗に拭ってまた読書に没頭する。
 …二割である玉子焼きを選んだ理由はあるのかねえ、石神やい…。そう聞きたかったけど、読書に割り込む勇気も出なくて、私は来週は三割に増やしてもいいかな、なんて考えながら残りの玉子焼きにお箸を伸ばした。






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