三秒程度

 水曜日の昼休みは、お弁当を食べ終えたらすぐ化学室に行くことにしている。次の授業がここだし、静かで寝るのに適しているし、先客とおしゃべりも出来るし。
 先客とは、我が広末高校が誇る天才児、石神千空。実際は天才とはちょっと違う類の頭のいい奴だけど、私の語彙力じゃ他の何児と表せないだけ。

「……でねえ、その古代遺物を起動させるキーアイテムが赤い宝石のついた指輪なのよ」
「ほーん?クロム、鉄、アルミニウム、マグネシウム、マンガン…どいつもんなスペシャル効能はまだ発見されてねえなあ」
「何の話よ。てか、ゲームの世界なんだから幻のルビーに魔力込めたとかそんなでしょ」
「ククク、その世界にコランダムっつう鉱石が存在してりゃな」
「もーだから何?説明してよ、石神センセ」

 待ってましたと目を見開いた彼が意気揚々と解説を始める。
 ええと、クロムっていう成分が混じったコランダムをルビーと呼ぶ?えんどうが入った白米を豆ごはんと呼ぶみたいなもの?…爆笑してる。

「見当違いじゃねえのが余計ウケるわ!タケノコだとサファイアってか!」
「えっ、ルビーとサファイアって元々同じ石なの?」
「そういうこった」
「へえ、一つ賢くなった!…何の話してたんだっけ?」
「指輪だろ」
「ああそうそう、人々はその赤に魅入られて争う訳…」

 そこで私は気づく。石神の瞳はまさしく宝石のように輝く赤であると。
 続きの言葉は消え、私は彼が訝しんで口を開くまで、じいとそれを見つめていた。

「………何フリーズしてんだよ」
「…石神の目は宝石みたいに綺麗だねえ」
「あ゙?」
「ルビー、ガーネット、スピネル、カーネリアン…」
「最後はオレンジ系じゃねえか?」
「ホント何でもご存知で。ね、ね、じゃあ私は?」
「いや話繋がってねえ………あ゙ー、黒曜石ってとこか」

 驚いた。流さず答えてくれるんだ。

「オブシディアンの方がお好みか?」
「…始めからそっちの言い方なら100億点だった」
「ククク」
「石神って私と話すの嫌いじゃないよね」
「嫌いだったらそもそも応じてねえっつの」

 あらもっと驚いた。これは一気に二十歩ぐらい前進しちゃったかしら。






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