臨也さんの子どもを産む、そのことに対する不安はいくらでもある。


その根強さと言ったら分娩台の上でひぃひぃふぅふぅ言ってるこの状況の中でさえ、こうしてサブリミナル効果の如くふっと主張してくる程である。

言わずもがな、臨也さんはあんなんだ。その血を受け継ぐ我が子が妙な影響を受けやしないか…それは強烈な個性を放つ彼の妹君たちという具体例がある以上、笑い事ではない。臨也さんそっくりの性格に育ったらどうしよう。人を愛することは大いに結構だが、方向性を間違えてもらっちゃ困るのだ。一家に臨也さんが二人いるのはキツい(というか一人でもキツい)。

そんな不安が頭の中を1割占める。残りの9割は『痛い』だ。もうすぐ我が子に会える喜びだとかは考えてらんないくらい痛い。痛くて痛くて、たまに不安で、パニックを起こしかけた心が臨也さんを求める。顔が見たい。手を握ってほしい。俺の中で天変地異が起こっているのに、肝心の臨也さんは此処にいなかった。『出産には絶対立ち会うからね!』とか言ってたくせに。臨也さんの馬鹿。静雄さんとケンカしてますとか言ったら浮気と見なしてやるからな。臨也さんの馬鹿。KY。薄情も、


「まさみ、ちゃん!!」


驚きでほんの一瞬、痛みがとんだ。臨也さんだ、認識した瞬間、再び痛みに襲われる。叫び声を上げた俺の手を臨也さんが握る。

「正臣ちゃん」

走ってきたのだろう、臨也さんはハァハァ言ってる。飛び込んで来たときの顔なんて写真に収めれなかったことを後悔するくらい傑作だった。なんだ、折原臨也も所詮人の子か。それなら大丈夫か。何に対してかは分からないけど漠然とそう思った。

1割の不安が安心に変わる。

そうだよな、この子は俺の子でもあるのだし、だったら良い子に決まってんじゃんか。俺が目一杯の愛情と優しさと、一般的な常識をもって育てればいいのだ。俺はこの子の母親なのだから。そう思えばこの痛みだって、平気ではないけど、だけど。

助産婦さんの声が痛みの終わりが近いことを告げる。

痛い、痛い、痛い、早く、




早く、おはようと言わせてくれよ!




「あ、」


「生まれ、た…」


響く産声に紛れた臨也さんの微かな声は、不思議なことに確りと俺の耳に届いた。涙で揺らぐ視界に映る臨也さんの顔はそれはもう傑作で、俺はカメラを持っていないことを再び猛烈に後悔したのだった。






おはよう、世界の具合はいかが?


腕の中の命の重み、手を握る臨也さんの温かさ。

俺は生まれてはじめて混じりけのない幸せというものを知った。







と、いうことで、ようやくお生まれになりました。
私はまだ経験したことないですが、実際はこんなつらつら考え事してる余裕なんてないくらい大変なんだろうなぁと想像してます。だって命が生まれるんだもの。この話の場合は正臣ちゃんに語ってもらわないと困るのでこういう形になりましたが。






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