あぁ、俺は今夢を見てるのだろう。

臨也はぼんやりと思った。
彼は今、紀田正臣の腹の中にいた。
何故腹の中だと分かるのか、しかもそれが正臣のものだと分かるのかは不明だ。所詮夢の中の話、細かい事は気にしない。
とにもかくにもここは正臣の腹の中なのだ。
臨也は辺りを見渡す。暗い。光の無い世界、だがしかし不思議と心地良い。

(この音は…心臓の音、かな。正臣ちゃんの…)

どくん、どくん、どくん。

響く一定のリズムと包まれる温かさが眠気を誘う。
夢の中なのに眠いだなんて可笑しな話だと思いながら臨也は目を閉じ、






目を開けた。

目覚めた先にあるのはいつもと変わらぬ自分の寝室だ。ほんの少し肌寒さを感じたのは先ほどまでの夢の名残だろうか。
悪趣味な夢だ。隣で眠る正臣を見つめながら臨也は思う。あどけない寝顔は年相応、というよりもむしろ幼く見える。当然だ。実際に正臣はまだ幼い。女というよりも少女と形容するのが相応しく、陽の光の下がよく似合う。

(そんな子どもに母性を求めるなんてねぇ?)

臨也は手を伸ばし、正臣の腹に触れた。何も纏っていない素肌のしっとりとした感触と温かな体温が手のひらを撫でる。臨也はそのまま手を滑らせ、ある一点で動きを止めた。

「…生まれたいんじゃなくて、産ませたいんだけどねぇ…」

ぽつりと呟いた臨也の手の下、正臣の下腹部では彼が吐き出したものが根付こうとしている。
臨也はうっそりと笑った。

―…可哀想な正臣ちゃん。もう陽の光は似合わない。
たくさんの理由に縛られて、逃げるとこなんて無くなって、そして最後には堕ちるのだ。

「そのときは手を握っててあげるからさ」


―…安心して堕ちておいでよ。


音の無い闇の中、臨也の耳に聞こえるはずのない鼓動が聞こえた。

どくん、どくん、どくん。

刻むリズムは終わりへの(あるいは始まりへの)カウントダウンのようだった。











確信犯な臨也さんの話。
この時点では臨也さんは子どもを愛する気配なんてさらさらありません。
うす暗い話ですが、最終的にこのシリーズほのぼのホームコメディ?に落ち着く予定です。テンションの落差がひどくなる予感。