「正臣くんはさぁ、神様って信じる?」

突然の質問に正臣はくわえていたリンゴ飴から口を離し、

「…今それを聞く辺り臨也の空気の読めなさは今年も健在ですね」

呆れた顔で答えた。

二人は初詣の帰りである。

朝から妙にテンションの高い臨也に叩き起こされた正臣は、『初詣行こうよ正臣くん』という気まぐれに付き合わされ少し離れた神社へと赴いた。どうせ行くならお祓いでもしようかと思ったものの考えてみれば落とすべき厄は目に見える形で隣にいることに気付き諦めた。参拝を済ませ、おみくじを引き(結果は吉だった。臨也は流石というか、大吉である)、目に入った露店で見つけたリンゴ飴を興味本意で臨也が買い(当の臨也は一口食べたところで『そういえばこんな味だったよねーもういいや』と残りを正臣に押し付けた)、一通り満足しての帰り道。

そして冒頭の質問である。

「神様は分かんないですけどト○ロはいるって信じてます」

「あー君、さつきちゃんが泣く場面で一緒に泣いてるもんねぇ」

「ト○ロはマジで名作ですよね。さつきちゃんは将来絶対良い女になりますよ」

リンゴ飴は中の実が見えてきた。あんまり好きじゃないんだよな、と飴の部分を噛み砕きながら正臣は思う。

「っていうかなんでいきなりそんなこと聞くんですか?しかも最高にKYなタイミングで」

「KYってもう死語じゃない?」

「使う人間がいるかぎり言葉は死にませんよ」

「深いなぁ。あ、それちょうだい?俺、リンゴ飴は中のリンゴの方が好きなんだよねぇ」

正臣は飴が完全に剥がれたリンゴ飴を返却した。つくづくこの男とは合わない。

「話が逸れたね。いや、お参りのとき正臣くんやたら熱心に願い事してたからさぁ、そんな信心深い子だったかなって」

「あぁ、あれは願い事じゃなくて昨年の反省を踏まえた今年の抱負を決意表明してただけです。大体神様がいたとして、人間の願い事なんか叶えてくれないでしょ。俺が神様だったら美人な女神様をナンパするのに一生懸命でちっぽけな人間なんて見てる暇ありませんよ」

悴む手に息を吐きかける。手袋を持ってくるべきだったか。後悔は白い息に溶ける。

「そうかなぁ?あんなとかに奉られてさ、神様って退屈そうじゃない?ちっぽけな人間が必死で願い事するのみてたら興味深くてさ、愛しくてさ、叶えてあげたくなったりするんじゃないの?」

リンゴを食べ終え、残った串を手の中で遊ばせながら臨也が言う。男にしては随分感傷的な言葉に正臣は視線を斜め上に向けた。赤い瞳に何だか物憂げな色を感じ、呆れたようにため息を吐く。

「もしかして臨也さん、神様に自分のこと重ねちゃったりしてます?とんだ厨二病っすね」

ズバッと吐き捨てた正臣に臨也は少しだけムッとした。手にした串をつむじに突き立ててやろうか、等と物騒なことを考えた臨也の手を正臣が握る。正臣から手を繋ぐなんて初めてのことで臨也は目を瞠った。なんだ。今日は槍でも降るのか。自販機あたりなら本当に降ってきそうだけど。思わず背後を振り返ったが、正月の空気に浮かれた街中に殺気は見当たらない。

「正臣くん?」

「心配しなくても、あんたはちょっと厨二病を拗らせただけのただの人間ですよ。こんなに簡単に触れるし」

正臣は臨也を見ない。

「…あったかいですから」

そこまで言うと、正臣は口元をマフラーに埋めてしまった。隠しきれない耳が赤いのは寒さのせいだけじゃないのだろう。臨也は柔らかく微笑んだ。

(新年早々正臣くんがデレるなんてねぇ)

初詣も無駄じゃなかったらしい。臨也は何も言わずに繋いだ手を離し、指を絡める形に繋ぎ直した。正臣の口から文句の言葉が出ることはない。繋いだ手に力を込めれば、同じくらいの体温が同じだけの力をもって握り返してきた。


見えないさま



「ああ、そういえば君はこの世界に神なんていないって言ってたっけ?」

「誰の話ですか?」

「ん?それとも新世界の神になるだっけ?」

「誰の話ですか?」









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