『今日は縛りたい気分なんだよね』と、爽やかな笑顔で酷く不健全なことを宣われ。
宣言通りに縛られおまけに目隠しまでされたまま、泣かされ鳴かされ心身共にぐったりとした正臣はぼんやりと己の手首を見る。
紅く残る痣。撫でるとぴりっとした痛みを感じ、正臣は顔をしかめた。

「…臨也さん」

「んー?」

ベッドの上、何やら小難しいことが書かれた書類を読みながら、臨也が気の無い返事を返す。

「俺、これ嫌です」

「これ?」

「その、縛るの、とか」

「なんで?あんなに気持ちよさそうだったじゃない」

視線は紙の上に落としたまま、臨也は口元だけで笑う。視界を奪われた状態で、何処からもたらされるか分からない快感に怯える正臣は可愛かった。封じることを禁じられた口からは随分素直な声も聞けたことだし。何より征服欲を満たされるシチュエーションに臨也は大変満足したのだけれど。

「気持ちいいとか、そういう問題じゃなくて、その…」

歯切れの悪い言い方に臨也はちらりと正臣を見る。言おうか言うまいか迷っている顔だ。

「そういう問題じゃなくて?」

「その…しがみつけないっていうのは、不安になるというか、ほら、不安定な体勢ですし…」

言いながら正臣の顔は徐々に赤く染まっていく。
恥ずかしいことを言っている自覚はある。
しかし言葉は既に外に出てしまった。
ならば全部吐き出してしまえと、半ば自棄になった気持ちで続ける。

「あと、見えないのも嫌です。臨也さんじゃなかったらとか、余計なこと考えるんで…見えてた方がいい、です」

臨也の方を見ないままに全てを吐き出した正臣は、笑いたくば笑えと覚悟を決めた。
しかし予想していた嘲笑もからかう言葉の一つもなく、不思議に思った正臣は恐る恐る顔を上げる。

「臨也、さん?」

呆けた顔の臨也が正臣を見ていた。

「…驚いた。何処でそんなの覚えてきたの」

「へ?」

臨也が持っていた書類を放る。それに正臣が気を取られているうちに臨也はばさりとシーツを剥いだ。
急に奪われた温もりとのし掛かってきた臨也に正臣は目を丸くする。

「な、なに…」

「やー正臣くんは可愛いなぁ。要はアレでしょ?『臨也さんにしがみついて臨也さんの顔見てないと不安なの』ってことでしょ?」

「な…っ!違いますよ!」

違わないのは正臣自身が自覚していたので否定の言葉に説得力はない。だから臨也もお構い無しに真っ赤になった頬を両手で挟む。

「俺の負けだよ正臣くん。俺は楽しかったし、今度はもっと違う縛り方とか試したかったけどさ、そんな可愛いこと言われちゃったら出来ないしねぇ。うーん、悔しいなぁ」

そう言いながらも臨也は上機嫌だ。なんたって正臣が臨也にデレるのは珍しいので。

「お、俺が勝ったのは分かりましたけど…この状況は?」

未だに臨也は正臣にのし掛かったままで、おまけに睫毛が触れそうなほどに顔の距離が近い。イヤーな予感しかしない状況に正臣は顔をひきつらせる。

「え?だって正臣くんはさっきのじゃ満足しなかったってことでしょ?安心してよ、今度は思う存分しがみついていいからさ」

そう言ってにっこりと笑った臨也に。

こんなにも嬉しくない勝利があるのだと、正臣は思い知ったのだった。



宣言

(ちょっと待って臨也さんもうほんとマジで無理…!!)

(悪いのは君だからね!)








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