〔6〕
「こちらは問題ない。計画はわずかな誤差が生じたが、許容範囲内だ。タタの書はやはり、使用できる状態ではなかったが、手元にある。事情を知る者も連れているが、予想より手間がかかりそうだ」
『他の現行組の連中とは連絡が取れない。携帯も不通だし、他はともかくシャルと連絡が取れないなんておかしいよ。死んでる気はさらさらしないんだけどね』
「お前が言うなら間違いないな。敵方に連絡手段を閉ざす能力者でもいるのかもしれない。生きているなら、その内連絡を寄越すだろう」
『それで団長、こっちに戻ってくるのかい?』
「いや、少し寄るところがある。シャル達の確認が取れたら、連絡をくれ」
『了解』
ギャァァアアアアア!!!
ようやくホテルに身を寄せ、携帯電話でアジトのマチと通話していたクロロは、不意に浴室から上がった悲鳴に思わず言葉を切った。
『団長。なに、いまの』
「……こちらの“駒”だ。悪いが切るぞ。シャルの方は頼んだ」
マチの返事も聞かないまま、クロロは携帯電話の終話ボタンを押しながら、部屋を大股で横切る。
一般的なシティホテルのツインルームは、数歩も歩けばすぐに洗面所まで辿り着いた。扉を開き、脱衣所に入りざま、浴室の磨りガラスの扉の向こうにトーンの低い声を投げ込んだ。
「お前の時代にも、治安を取り締まる役人くらいはいただろう。面倒な目にあいたくなかったら、騒ぐな、目立つな、静かにしてろ」
「クロロ!」
バンッ、と扉が開き、紛れもない全裸のビビが、驚愕の手本のような表情で飛び出してきた。
「な、な、な、なにあれ! どうなってんの!?」
ビビの指差す先にクロロが視線を移すと、ソーサーほどのサイズのシャワーヘッドから水が降り注いでいる。現代人のクロロから見て、何もおかしい点はない。
シャワーの存在を知らなかった古代人ビビに、事前にその取り扱いの説明を、クロロは親切にも一通りしてやった。一頻り感心して聞いていたビビだから、いまさら叫ぶようなビックリ要素はないはずだ。
「熱い!」
「温度調整の説明はしたはずだ」
「聞いたとも! だから、言われたとおりに赤いほうに仕掛けを動かしたのに、温度が変わらなかくて、いっぱいまで仕掛けを動かたら、焼けるように熱くなった! だから仕掛けを戻したのに、熱いまんまなの!」
黙ってクロロは、未だに流れるシャワーに手を差し入れた。
「危ないよ!」とビビに手を引かれたが、シャワーの水は冷たかった。
レバーをひねって適温であろう場所に定めると、しばらくして徐々に水からお湯に変わる。
たしかに、普通よりも温度が変わるのに時間がかかるかもしれない。が、常識的範囲内だ。
だが、加減を知らないビビは、魔法みたいに、レバーを動かした瞬間に温度が変わるものだと思っていたのかもしれない。
四十℃ほどになったシャワーの中にビビを突っ込んで、浴室を後にしようとしたクロロを、ビビが引っつかんだ。
「待って待って、土がないんだけど、どうすればいい?」
「……何だって?」
「土だよ、身体を洗うのに、石もないし、ホエホエも見当たらないし……」
見事に八の字に眉を下げたビビは、情けないツラで、辺りを一生懸命見渡していた。
頭痛がするようだ。
振り返ったすぐそばの洗面台に置かれたアメニティグッズの裏には、子供でも分かるような当たり前の説明書きが書かれている。
これを読め、と言ったところで、ビビはハンター語を読めない。仮に読めたところで、理解できるかどうか、それはまた別問題。
ビビの頭をわしづかみ、シャワーの降り注ぐさなかに座らせる。
「わわっ、」と滑りながらしりもちをついたビビの頭に、封を切ったシャンプーを流しかけながら、一体あといくつ、教えなければならない事柄があるのだろうかと、心底うんざりした。
------アトガキ--------
さあはじまりました、クロロ団長連載。別名、俺得連載。
管理人にしては珍しく、現代ほのぼの連載ではない、原作世界で冒険もの!
さあさあストイックな団長を、はたしてくどき落とせるのか、管理人が^^^^
主にヒロインに、「あなたを雇おう!」とクロロに向かって言わせたかっただけの連載。
クロロを雇いたかっただけの管理人の欲望の塊。
団長を雇いたいです。きっとものすごくお高いでしょうね!そうでしょうね!
20130401
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