〔4〕
「分かった。じゃあ素敵な刺青の黒髪さん。君を私が雇おう」
「はあ!?」
ビビのびっくり発言に、思わず声を上げてしまったのは、シャルナークとフィンクスだ。
しかし彼女は聞こえてないように、妙に自信のある顔でクロロを見上げていた。団長は、真顔でビビを見下ろしている。
「報酬はタタの書、オマケもつける。だからコレが片付くまで私の為に働いて下さーいな!」
アイカが一瞬の動作で、抜けぬけと取引を持ちかけていたビビに向かって、指先を弾いた。
オーラが弾になり、一直線にビビの額めがけて飛んでいく。オーラの欠片を飛ばしただけのごく弱い攻撃だが、念能力が使えない相手にこの至近距離なら急所に当たれば十分殺せる。
前触れの無い攻撃に偉丈夫のウジュラは動くのが遅れ、ビビはまろぶように横に転がって避けていた。
オーラの弾は石の箱を堆く積み上げたような祭壇に命中したが、二撃目がすでに体勢を崩しているビビに向けられていた。
殺られる。
誰もがそう思ったが、しかし二撃目もビビには当たらなかった。
階段にへばりつくように伏せていたビビの前に、団長が立っている。
弱いオーラの弾は、単純な凝だけで十分防御されたようだった。
「いいだろう、お前に雇われよう」
にやり、と笑った団長は、ずいぶん楽しそうだ。
左手に盗賊の極意を表し、右手を掲げる。瞬間に、アイカと美女が後方に飛びのき、偉丈夫は大剣で己を守った。
一瞬後には、砂時計を攻撃したのと同じと思われる―――相変わらず何で攻撃しているかは分からないが―――念で、その場を吹き飛ばした。
轟音が響いて派手に床が砕け、視界が一気に砂塵に包まれ、自分の足元も見えなくなる。
シャルナークは思わず目の前に腕を掲げた。
次の瞬間、間近にいた操作系の二人が一気にオーラを纏い、攻撃態勢に入ったのを感じた。
原始的な目くらましを仕掛けたクロロは、アイカという男の動向をうかがった。
相手は階段まで下がり、その場に留まっているようだが、オーラの様子からして何か仕掛けてくる気配がある。
後ろの女を掴まえようと振り返ると、ビビは石造りの祭壇を一心不乱に弄っていた。
ジャポンの寄木細工を思わせるように、あちこちの石壁をずらしたり押し下げたりしながら、そこに刻まれた文字を懸命にたどっている。
こちらに背を向けている彼女は、その作業を続けながら、クロロに対して声を上げた。
「ウジュラ、止めといて!」
とっさに右手を伺うと、大剣の偉丈夫は剣を構え、ビビに視線を定めているようだった。
偉丈夫は、どうやらビビ側というわけではなさそうだ。
何者も脅かすことのない手“ゴッドハンド”のページを開いたクロロは、漆黒に染まった手でウジュラビビに振りかぶった大剣を受け止めた。
オーラと剣の切れ味は防げるが、斬撃の重みはとてもまともに受け止められるものではなかった。
間違いなく、強化系だな。
後ろに流し、攻撃を加えてどうにか一定の間合いを確保したクロロは、まだ砂塵で姿が見えないアイカを確認する。
来ると思った攻撃は、アイカに付いた女のものだった。薄布の女が、同じ姿で三人、短剣でまともに切りかかってきた。
…具現化系か。
幾度か攻撃を交えた後、入ったと思った急所への打撃はなんともいえない手ごたえになり、女の姿は一瞬にして、十字に組まれた小さな枝になって、地面へ落ちた。
残りの二人がウジュラの大剣にかかって、やはり枝切れに変わるのを見る間に、クロロは不意に盗賊の極意を持った左手を取られた。
「さ、行くよ」
ビビが竹簡のような物を抱え、こっちだとそのまま腕を引く。クロロはだいぶ視界の開けつつあるホールにいるはずの団員に向かって声をかけた。
「退け!」
ビビに引きずられた先は祭壇の石段の上だった。
とても登るために設計したとは思えない大きな石造りの上を指差し、あそこだとビビが言う。
それは、建物の絵が彫りこまれた、おおきな一枚岩だった。
「あそこに私を連れて飛び込んで」
確かに、普通の人間ではあそこまで登るのは一苦労だろう。
仕方なく、腕を引いてくるこの生意気な女を肩に担ぎ上げ、一息に跳躍した。
砂塵の治まりつつあるホールの中に、アイカがこちらをねめつけているのが見える。
ギャラリーの念能力者たちと同じ高さまで来て、そのまま一枚岩の中に腕を顔の前にかざしてぶつかった。
背後で、フランクリンの俺の両手は機関銃“ダブルマシンガン”が派手に炸裂する音が聞こえていた。
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