今はそんな関係で
「たぁーいちょ、ただいま帰りましたですよー」
刀を片手に引っ提げ、執務室の扉を開くとやけに驚いたように小さな隊長がこちらを向いた。
あらあら、お目めが真ん丸。
「え、あ、早かったな」
「そうですか? いつもよりだいぶ手間取りましたよ」
つい、と指差した窓の外は夕暮れの茜空。
どこか心ここにあらずの隊長はそれを見ると、ああそうだな、と呟いた。
なんだこの挙動不審。
「何かあったんですか?」
「いや、なんでもない。お前今日はもう上がっていいぞ」
足早に私の横を通り抜けて部屋の外へ。
「いや、定時ですし上がりますけど、隊長まだ仕事あるんですかー……」
最後まで言い切る前に、日番谷隊長は廊下の遠くへと行ってしまっていた。
足早いな。
もう一度視線を戻した無人の執務室の中は、乱菊さんはもう帰ったようだし、隊長の机を見てみても残業しなければならないような感じはない。
上で何かあったのだろうか。
まぁでも、一応席官の私に帰宅許可が出たのだから、たいしたこともないのだろうと、報告書だけ上げて帰らせてもらうことにした。
それから数日が経って、そんなことも忘れかけていた頃。
「五木野くん」
資料配布の帰りに廊下を歩いていた時、背後からかけられた声に振り向くと、藍染隊長がにこやかな笑顔で片手を上げてこちらに歩み寄ってくるところだった。
「いやぁ、先日の打診は残念だったよ。でも四席として十番隊で頑張っているなら、もちろん君にとってはその方がいいんだけどね」
「はあ」
ぽかんとして藍染隊長の顔を見上げていると、相手の方が気付いたらしい。笑いを引っ込めて、
「おや、日番谷隊長から聞かなかったのかい?」
その指摘に、更に怪訝顔を深くした。
「隊長ー、ハンコお願いしますー…」
「ああ」
隊舎に戻って、執務室に顔を出すと、日番谷隊長はいつも通りの様子で仕事をこなしていた。
手を動かす隊長を、じっと見下ろす。
相手はすぐに察して、顔を上げ、なんだと眉間のシワ数を増やした。
「いいえー?なんでもー」
「含みのある言い方だな」
「そんなこたないですよ」
隊長は少しむっとして眉をひそめたが、それ以上言及することもなく視線を書類に戻す。
『実はね、先日どうにも席官のめどがつかなくて、日番谷隊長に君を七席に欲しいと申し出たんだ。君は四席になったばかりだし、悪いとは思ったんだが』
でも、結局日番谷隊長止まりで蹴り返されたみたいだね、と笑った藍染隊長の顔を思い出す。
現世任務から帰ったあの日がそうか、と考えながら目の前で揺れる白髪をぼーっと見る。
「隊長」
「なんだ」
「三席の誘いだったとしても断ってました?」
言うと、驚いた顔がすぐにこちらを見上げてきた。
あの日の顔とは少し違うんだな。そう思いつつ口を再び開く。
「例え副隊長でも、断って構いませんよ。隊長が十番隊で必要としてくださるなら」
「………馬鹿が、お前に副隊長なんざ百年早ぇんだよ」
あ、ひどい。さりげにひどい。
あれ、でも百年だったらそうでもないか?
「ねぇ隊長、百年後に他隊から打診来ても、蹴って下さいね」
言ったら、返事はなかったけど。
覗いてみた書類に書かれた文字がミミズがのたくったようなそれになっていて、ポーカーフェイスを決め込む上司にニヤリと口角が上がった。
。.。.。.。.。.。.。.。.。.
まあ、アレですね。
この話で一つ分かることは、管理人が藍染を好きではないということですね。
しかしシロはこれツンデレなんですか?
勢いだけで書くと、こういうことになります。
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