064
「さァてと、や」
白いバンと、白い頭の坊主とその保護者を見送って、一仕事終えたと、うなじに手を当てて首を捻った。どうにも最近、凝りが激しいようだ。バキバキとえげつない音がした。
「美味しいモンでも食べに行こ」
くるりと体を翻し、白のクーペに乗り込んで運転席に腰を据える。
助手席にあった、院長先生に渡したA4紙の余りを取り上げて目を通す。
そこに並んだ10歳以下ばかりの子供達の画像は、どれも悪趣味にマニアックだった。まずどれもまともに服を着ていない。着ていても緊縛やら汚れているやら、口にするのも気持ち悪い。
コピー用紙の端に印字された文字が、とあるサイトをプリントしたものであることを告げていた。
犯人はもう、言うまでもない。
何枚かめくって、白髪が目に入る。
面白くもなさそうにそれを見下ろしてから、無造作に後部座席へ放った。
まぁ、院長先生に渡したものは、まだ“可愛い子供の写真”程度である。画像の上をデカデカと横切るsampleの文字と、画像の下の値段提示がなければ問題がない程度には、だ。
「あほくさー」
サイドブレーキに手をかけたところで、片眉をくいっと跳ね上げた。何か忘れてる気がする。
「………。気のせぇやろ!」
上機嫌にエンジンスタートしたところで、奇妙に車が、グワンと揺れた。
そんじょそこらの型落ちポンコツ車じゃあるまいし、エンジンをかけてそんな揺れ方するわけがない。
じゃあなんで?
しばらく考えて、
「あ、忘れとったわ」
エンジンそのままに、車から降りて後ろのトランクをパカッと開けた。
と、途端にそこから突き出された片足が、彼の腹部を狙ったがこれは結局当たらず終いだった。
「なんや、元気よろしいやんか。まだ閉じこめとっても大丈夫やん」
転がり落ちるように出てきた、オレンジのそれ。
砂利の上に手足をついたかと思うと、俗に言う生まれたての小鹿状態でぷるぷると立ち上がった。
「まだ腰抜けとるん?」
「だ……まれ、クソ狐………」
立つのもようようと言った体だが、外傷はない。
一護は元からいいとは言えない目つきを更に険悪にして、自分をトランクルームに監禁した張本人を睨み上げた。
「嫌やなぁ、そんな怖い顔して。イマドキ強面も流行らんやろ」
「市丸……今度あんな事してこんなとこ閉じこめてみやがれ、ご自慢の愛車をオレンジに染めてやるからな!!」
「うわー、なんでそんな下品な色なん? センス悪」
「なんべん呼んでも開けねぇからだろぅが!!」
「しゃーないやぁん、そこ防音やねんから」
当たり前のようにトランクを指差す市丸に、なんでたかがトランクが防音なんだ、とは、一護は聞けなかった。
このふざけた銀髪とは、決して深い付き合いをしてはいないが、胡散臭さに関しては十分感じている。
深入りしたって、どうせろくなことはない。
「キミが助けてって言うから、あのちっこいのん捕まえるの協力したってんでー、ちょっとは感謝しぃな」
「あーそりゃどーもさーせんっしたー」
「ひどい棒読みやなぁ自分」
まぁ確かに、アイツを捕まえるのは一人では手に余った。
運動神経に自負がある一護から、散々逃げおおせたあの少年は、結局市丸との共同戦線でやっとお縄にした。
冬獅郎が逃げ込んでそうな路地を言い当てたのも市丸だ。それに、市丸もどうやら冬獅郎とは初対面ではないらしい。
まぁ、三人が三人、喧嘩によく関わってるというか巻き込まれてるメンツばかりだから、当然といおうか必然といおうか。
そういえば、自分が冬獅郎と最初に会ったのも、アイツが中学生に絡まれている現場だった。あの時も巻き込まれて散々だったなぁと、どこか空虚に空を見上げる。
ただ一つ言っておくが、市丸の方の喧嘩はつけあがったガキのそんなもんではなく、本物のチンピラ共のそれだ。
絶対に関わり合いなんてごめんこうむる。
ちら、と見上げたら、銀髪をなびかせた男は駐車場の出口の方を見ていて、不敵に笑っていた。
全く、ごめんだ。
図らずも自分が引き合わせてしまったといえ、あの良心の塊みたいなお姉さんがこれ以上この男に関わり合いにならぬよう、心の底から祈った。
ーーーーーーアトガキーーーーー
補完文章。
やっと市丸の名前が出せたんだぜ。でもブリーチファンならみんな気付いてたよね!管理人の拙い文章でも汲み取ってくれたよね!ね!(…
いつぞやにアンケートで取りました、登場させようキャラ第一位、市丸さんをここで投入。こんな所で突っ込む予定はさらさらなかったが、もう一護出てるし……なんかちょうどいいし……という管理人の都合。
市丸さんやら一護さんやらは、とりあえずしばらくの間は存在感薄く過ごしていただきます。
アンケートコメントはおいおい、生かさせていただきます、ご協力いただいた方々、重ねてありがとうございました!
ところで市丸さんの訛りは難しいよね。やっぱりね。
どっかで市丸は京都訛りだと聞いた(中の遊佐さんも京都出身だから丁度いいみたいな話)から、意識はしたけど無理だった。
そもそも、管理人の京都訛りのイメージが、原作市丸の喋りと合致してない^q^致命傷^q^
管理人が大阪訛りなんで、余計偏るんですよね。
どっちかってぇと平子訛りの方が管理人には近い。
方言って難しいですよね。同じ大阪なのに、「ーやんけ」ってのは岸和田訛りやろ、なんで大阪市出身やのに使うねんって、八尾だか東大阪市出身だかの彼氏に突っ込まれたって従姉妹の体験談。
「〜ちゃうんけ」とか、怒ってる時は私も出るけどなぁ、と思った同じく大阪市出身の管理人、深夜11時。
本当難しい……(´д`)
100623
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