005




朝飯、といってもうちは基本、朝はパン食だ。パンを焼いて、望むなら目玉焼きとかサラダとか。



もう一度布団で寝るかと聞いても、冬獅郎君の纏う空気が寝ないと言っていたので、冷蔵庫にあるものを適当に見繕って朝食を用意した。

ていうか私すごいな。空気で会話か。電波少女になれるかしら…。


くだらない思考回路を遊ばせながら、冬獅郎くんの皿にベーコンを巻いたアスパラを多めに入れてやった。



「…………」

「…………」

「…………」



非常に、静かな食事です。


会話が成り立たないなら、どうしたらいいの…!

全くの無反応じゃないだけマシなんだろうか。



「あー、頭痛いー……」



その時ひどいガラガラ声で、静かすぎるリビングに入ってきたのは母だった。

今にも倒れそうな位フラフラで歩いて来たかと思えば、黙々と食パンを口に運ぶ白髪美少年の姿をみとめた瞬間、



「あっ、しろちゃんおっはよーっておいしそうね、一口ちょうだいな」



背後から抱き着いたかと思うと、了承が出る前にパンにかじりつく。

とんだカツアゲだ。



「さて、今日は色々服とか買いにお母様と行きましょうねー。何か必要なもの、他にあったかしら」

「学校は、第一小なの?」



ここの学区は第一小学校。私も行った小学校だ。



「あぁ、手続きに行かなきゃいけない。もー、市役所で戸籍手続きの時にいっぺんにできたらいいのにー」

「冬獅郎くんは、今何年生?」

「五年生よ。ねー?」

「ぶっ」



食べかけのアスパラを喉に詰まらせるところだった。



「何年て?」

「五年」

「てことは?」

「十歳。十二月で十一よね」

「…………」



私は無言のままテーブルの上にあった牛乳パックをつかむと、半分中身のなくなりかけていた冬獅郎くんのコップになみなみとそそいだ。



お風呂、一緒に入らなくてよかった。


















朝食を済ませた後、私は冬獅郎くんと共に母に車で連れ出された。


二日酔いのくせに、はしゃぎっぷりが普通じゃない。
ストッパーになるはずの父上がいらっしゃらなかったので、暴走列車は止まらない。


父上は普段家をあけすぎて書類仕事があると言っていたが、ならば母よ、仕事の上でもパートナーである貴方も忙しいはずではないのか。

冬獅郎くんの手前、何も言わなかったが、今頃大変な思いをしているであろう父をあわれんだ。



「ねぇ、コレは?」



横に冬獅郎くんを立たせて服を片っ端から合わせていくのを、少し離れて見守る私。

ああなったあの人が止まらないのは、数えきれないほど経験済みだ。

これからあの少年も経験していくんだろうなぁと思いつつ、荷物持ちに徹する。

もちろん、こちらに飛び火してこないようにするためだ。



「似合う! なんでも似合うわ〜。やっぱ顔がいいしねぇ。祐は派手なの全くダメだもんね」

「いいの、スパンコールじゃらじゃらなんて趣味じゃないから」

「あっ、このキャップかぶって」



聞いてないんかい。



「だからお母さん、服は一回り大きい方がいいって。すぐ着れなくなるから」

「んもー、貧乏性よねぇ」



なんだかんだ、買ってる服は結構な量になってる。


最後の手段としてさっき薬局で買ってきたアスピリンを二日酔いの残る母に押し付け、その隙に精算を済ませた。

貧乏性で結構。エコだよエコ! どうせ買ったってしまう場所も無ければ、結局着ないのが何枚も出てくるんだから!











私がかさばった荷物の袋を整理してまとめていると、少し慌てた様子の母が駆け寄って来た。

まだ買うつもりかと身構えれば、違ったらしい。



「パパから呼ばれちゃったー。保存したデータが分からなくなったって」

「あぁ、いいんじゃない、ほとんど買い物済んでるし」

「あんた、厄介払いできてよかったとか思ってない」

「滅相もございません。じゃ、これ車で持って帰ってね。後は私が見るから」

「……祐ちゃん、センス地味だからなぁ」

「……ハイセンスと言ってくださいませ」



ちゃんとしろちゃんの面倒見るのよー、と最後まで未練たらしく振り返っていた母を見送り、さてと振り向いたが。


マイ弟の姿はどこにもなかった。


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