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やっと来たというか。

私の高校の文化祭の当日になった。




他の生徒よりも一時間以上早く登校した私は、案内所を整備し、文化祭が始まってからは放送室に閉じこもって案内放送を片っ端から読み上げていた。

そんな雑務からようやく解放されたのは昼を回った頃で、既に両親や冬ちゃんが来る予定の時刻で。


待ち合わせた西玄関に向かって歩いていた私はしかし、まだ一階にも着かない内に誰かに裾を掴まれて歩みを止められた。



「おっ…と……?」



振り返った先にいたのは、珍しくも息を切らしたマイ弟だった。

私のワイシャツの端っこをつかんで、翡翠の双眸が下からこちらを見上げている。

かわいい。いや、じゃなくて。



「ど、どした?」



相変わらず、インプリンティングでもされたんじゃないかというような懐き加減の少年に撫で回してやりたくなりながら、それでも何かあったらしい彼にしゃがんで視線を合わせる。

薄手のニット帽をかぶった冬獅郎くんの頭をゆっくり撫でると、彼は少し視線を後ろに向けた。


それが意図するところは分からなかったが、辺りを見回しても我が二親の姿がない。



「またお母さん達、仕事だって?」



すると、ふるふると少年は首を振った。



「ん? 先に来たの?」

ふるふる。

「一緒に来たけど離れちゃったの?」

コク。

「そうかぁ…」



今日も今日とて、母によるコーディネートに身を包んだ冬獅郎くんに、じゃあ一緒に西玄関に行こうか、と言おうとして、



「弟クーン!!」



聞こえた高い呼び声。

こ れ は………



「そういうことか弟よ…!」



がしっ、と冬獅郎くんの腕を掴み、声が聞こえてきた方とは逆方向に全力で走り出した。

花牧さんの声はさまよう様に辺りに向けられていたから、まだこちらの位置はバレていないらしい。

しかし、何故か探す彼女は的確にこちらの後を追ってくる。



人ごみをかきわけて逃げ惑っている内に、北校舎のどん詰まりまで来てしまった。
………行き止まり。人の多いせいか、校舎内を上手く把握出来ていなかったようだ。



花牧さんの声は着実に近づいてきているし、あぁ、さっきの階段降りとくんだった…!



「んー? 何してんの?」



不意に、とぼけたような声が後ろからかかって、思わず体がビクついた。



「なんだ……崎守くん」

「なんだはないだろー」

「いやぁ…あはは……」

「おっ、内田弟じゃん、来てたんだな」



手ぬぐいを頭に巻いて、脚立を担いでいた崎守くんは、私達の背後から聞こえてきた例の声に気付いたらしい、万事心得たと言ったようにニヤッと笑った。



「あれ、花牧だろ?」

「おっしゃる通り………」

「内田弟に会いたいつって喚いてたもんなぁ」



ケラケラ笑った崎守くんは、よし、と言って私達を手招いた。



「面白そうだから匿ってやる」



有り難いのか何なのか。

引き込まれた先は、廊下のどん詰まりにある用具庫で。

手持ちの鍵で扉を開けた崎守くんは、その鍵を私に手渡し、



「後で職員室にソレ、返しといてな」



にかっ、と笑って崎守くんは私達を用具庫に入れるとそのまま扉を閉めた。

………。



「って、鍵返すのめんどいから…!?」



いやしかし、一応助けてくれたわけだし感謝すべきか………面白半分だけども。



掃除用具やら予備の机やら使ってない移動黒板やらであまりスペースのないそこで声を上げかけて、間近で聞こえた花牧さんの声に冬獅郎くんが私の口を覆い、意味もなく身を縮めた。


今にも息遣いが聞こえそうな程、花牧さんがそこにいるのが分かる。

ちょっと悪いなぁと思いながら、悪戯してるみたいにドキドキするのも否めなくて、腕の中の冬獅郎くんと目を合わせてこっそり笑った。





外はざわざわと多くの人が行き交っていて、今は文化祭真っ最中。


奇妙な隔離感を覚えながら、扉を背に座り込んだ。



「まるで世界に二人っきり、だねぇ」



クスクスと笑った私に、不謹慎なとでも不満を持ったのか、眉間のシワを増やしたマイ弟。
動きずらい狭い隙間で、彼を背中から抱き寄せれば、冬獅郎くんも自然に力を抜いて体を預けてきた。


慣れて、きたのだろうか。この随分過保護な姉の存在に。



またしてもクスクス笑いをはじめた私に、再び少年は眉をひそめたが、しまりない顔をなかなか戻せない私に対しての、彼が持ち得た抗議の術は、半袖を遠慮がちに引くことだけだった。


それでも意思を見せてくれた彼がかわいくてたまらなくて、なおさらきつく抱きしめたら、逃げられた。



全く、いい加減私のとことんなまでの抱き着き癖にも慣れてもらいたいものだ。


わざと淋しそうに冬獅郎くんを見つめたら、バツの悪そうに視線を逸らされて、沈黙のこの超狭小空間。


意外にも、無言の帝王である冬獅郎くんの方が先に音を上げて、私の左手の先を取り、用具庫の戸をカラリと開けて外に出た。


私が用具庫の鍵を閉めるのを確認し、繋いだ手はそのままに、今度はゆっくり、廊下を辿る。



悪戯半分に、握られた左手をきゅっと握ってみたら、やっぱりどこかバツの悪そうに顔を背けた冬獅郎くんは、数歩先をたって歩いた。



どこぞで買ったホットドックを片手にした母達と合流してからも、手は離されなかったから、妬いた母上が冬ちゃんの反対の手を取って両手に花。




結局、蛸庵にお好み焼きを食べに行き家に帰るまでの、可能なかぎりの間、仲良しこよしで手を繋いでいましたとも。

















。.。.。.。.。.。.。.。

すみませ、行事モノ恒例の超鈍足更新………

言い訳としては、大阪にネタ帳忘れて来たとかでしょうか。

ホントに、一番忘れちゃいけないものを……orz
まあ落ち着け俺、落ち着いてタイムマシンかどこでもドアを探せ。




あんなに文化祭に振り回されてたヒロインさんですが、彼女の文化祭の話はこれで終了です(ぇ

しかしこの姉弟、非っ常ーにゆっくり歩み寄ります。姉弟というか、主に弟の方ですが。

物語内でせいぜい年度が変わるまでに一皮剥かせたいですね。



今日は友人とTSUT○YAで借りた脱色映画第一弾を見たので、テンション任せに書き上げました。

まぁ本当は第二弾を見た方がよかったんでしょうが、なかったそうなので。

多分、次借りる頃には第三弾がDVD化されてるんでしょうねーふふふ………



やっと移転が完了した…!


090806


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