049



明らかな、酔っ払い。

頑固そうな顔つきの初老の男性が、まろぶようにして座席まで行く。
顔の赤みはたいしたことはないものの、いかんせん、酒臭い。
目は座っていて、妙に黒々とした瞳が前方をじっと見据えていた。


すぐに同じ車両に乗っていた女性がそっと隣の車両に逃げるのが分かった。

私も冬獅郎くんの手を引き寄せたが、揺れる電車に立ち上がることが出来なかった。


目を合わせないように、己の太腿を睨み付けるように見下ろす。


後三駅。そこまで何もなければ………



一つ駅を過ぎると、更に心臓がばくばくと音を立てた。


男は立ち上がって、客を品定めでもするように車両を徘徊しはじめていた。


ああ、さっきの駅で降りて、一本後の電車を待てばよかったのかもしれない。



そう自分を叱咤した時には、男は目の前の吊り革につかまって、プスプスと炭酸を抜くような音をたてながら息を吐き、こちらを見下ろしていた。



これ以上は無理という位身を固くしていた私の横を、無遠慮に通りすぎた男のごつごつした腕が通り抜ける。

はっとした時には、冬獅郎くんの白髪がわしづかみにされていた。



「おーめぇ、なんだこの髪はぁ!? ぇえ!?」



よく響く怒号のように張り上げた声が、ビリビリと車内をはしる。

カタンコトン、という規則的な音が酷く間が抜けて聞こえていた。



何も考えていなかったのかもしれない。
とっさに泣きそうになりながら、私は男の手を払いのけ、冬獅郎くんを手中に取り戻していた。



「やめ、下さい」



毅然として言おうと思ったのに、喉が引き攣った。
視界の外で、男の視線が私に向けられたのが、はっきり見えたように分かった。



「ー、〜☆@っ*£★、☆&〜〜#¢!!」



とっさのことで呂律が回らなかったのは相手もだったらしい。

確実に感情は高めながら、私が羽織っていた上着を、まるでつかまるようにして引っ張る。


薬物でも飲んだような顔を近付け、よだれの垂れかけた口元から吐かれる息は、こちらが酔いそうな位酒臭い。



こらえきれずに顔をしかめたら、更に男は癇癪を起こし、反対側の手も伸ばしてきた。
その手が小さなペンダントの鎖を掴んだからたまらない。

そのまま首が鎖で切られるんじゃないかと言う位におもいっきり引っ張られ、思わず床に膝をついた瞬間、横で風が迸った。







ああ、この感覚は何度目だろうか。







男の腕が取れたんじゃないかという程強く払われ、横では冬獅郎くんが立ち上がっていた。

いつもと同じ無表情なはずの顔は、明らかに容赦のないものになっていて、翡翠の瞳は暗く、鋭い。



そう、最初に会った時と同じ。
誰も寄せ付けない、あの空気。



男が伸ばしてきた腕をかい潜って、男の顔を殴り付ける白い影。

本当にあの小さな体でそれだけの威力が出たのかと言う位の派手な音を立てて、相手は床にたたき付けられる。

それに我に返り、許すということを知らないようにまだ追い打ちをかけようとした。



「やめて!」



顔に血がのぼっていたからか、相手が鼻血を出しているのを見て、冬獅郎くんを背後から羽交い締めにする。

男が唾を飛ばしてわめきちらし、立ち上がるのを見て、冬獅郎くんはまた動き出そうとする。
目は私を見ていない。



電車が駅のホームに入ったのを見て、電車の扉が空いたのと同時、冬獅郎くんを離さないままホームに降りる。相手も冬獅郎くんを殴ろうとしてか、電車を降りてきた。


電車の扉が閉まったのを確認して、ありったけの力を振り絞って声を上げた。



「駅員さん!!」

















送ろうと言ってくれた、鉄道警察の親切な男性の申し出を遠慮して、一駅前ながら歩けない距離ではないため、そこから徒歩で家に戻ることにした。


ぽつぽつと帰路を歩く間、先程から冬獅郎くんは隣を歩こうとしないで、後ろをついてくる。


駅に降りてさえ戦闘意欲を失わなかった二人は、結局圧倒的な大差で冬獅郎くんの優勢勝ちで幕を閉じた。

暴れる男を取り押さえる為なら、冬獅郎くんが責められるべきことは何もない。

けれども冬獅郎くんは間違いなく前後不覚になっていて、誰の制止も聞こうとはしなかった。



我に帰った今、もしかしたら彼は罪悪感にうちひしがれているのかもしれない。





かける言葉も見つけられない己の無力さにため息をつきながら、私は通りすがった公園のベンチに腰をかけた。



「冬ちゃん」



少し離れた所に立ち尽くした少年を呼べば、静かに足を進めて傍までやってきた。

だが、いつもはまっすぐに向けられるはずの瞳が、今は見えない。



俯いたままの彼と、しばらく沈黙を共有してから、



「ありがとうね」



それだけを言った。


冬獅郎くんが、ただの暴れん坊ではないのは分かっている。
いつも正統な理由があって、やり過ぎれば自分でも気付いて、それを後悔だってするなら、叱るよりも、今はこちらの言葉の方が適切だと思ったからだ。


冬獅郎くんの見開かれた瞳が、ようやくこちらを見上げて、私は思わず苦笑をもらした。



でも、冬獅郎くんの眉根は何かを堪えるようにひそめられたままで、じっと我慢しているかのようだった。



「守ってくれて、ありがとう。手、痛くなかった?」



彼を引き寄せて、右手をそっと取ってみれば、ぴくりと痙攣した。

こぶしは案の定、赤くなっていた。



包みこむようになぜれば、ゆっくりと目の前の上体が屈められて、


静かに私の左肩に納まった。


細い両腕が私の首に回されて、きゅっ、と小さく絡み付く。

肩口に埋められた頭部は、遠慮したように僅かな重みしかなかったが、細い背中を抱き寄せれば、そのまま少しずつ体重が預けられた。





心地よい重みを感じて、見上げた夜空は、冷たい空気の中にぽっかり月が浮かんでいた。
















.。.。.。.。.。.。.。.

た、楽しすぎる………!(ぇ


抱き着かれたい甘えられたいあの白いフワフワ(のはず)の髪に頬寄せて細い背中を抱き寄せt(ry




ホントは違うストーリーだったはずが、なぜかこんな展開。

まあ管理人に関しては、いつものこと。
っていうか、展開を事前にしっかり決めて書いたら、全く萌えない話しか出来ないんですよね。
なんてこった/(^O^)\


だからスランプになると、本気で何も書けません。



次は何を書こうかなぁと思いつつ、もうそろヒロインの文化祭。

その前に一話位日常話挟みたいですが、どうなるか分かりません。だってキングオブ☆ノープラン\(^O^)/


この頃飛ぶように日にちが過ぎます。
時間て怖いわ!(/ロ゜)/




追伸

たまごっちが二十歳になりました。死ねばいいのn(ry

※3/12日記参照




BGM 鬼束ちひろ
アルバム This Armor


090314


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