004




冬獅郎くんの後に風呂に入り、濡れた髪をタオルで掻き回しながらリビングに戻ると、酒盛りの残骸だけがそこにあり、二親の姿はどこにもなかった。

おそらく父が酒豪一名を寝室に連れ帰ってくれたのだろう。

缶ビールだけはごみ箱に捨て、綺麗に片付けられた大皿をシンクに置いて、後は家事の二文字を完全に放棄しつつある母親に押し付けることにした。



部屋に戻ると、マイ弟が並べられた布団ではなく、部屋の片隅にリュックサックと並んで座り込んでいた。

格好はちょうど、体育座りとあぐらの間で、崩しかけた体育座りというか、膝を立てたあぐらというか。
その膝の間に顔を埋めて縮こまっている。


あれ、寝てていいよって言って出なかったっけ?

母の騒動に付き合わされて、もう結構遅い時間。


もしかしてコレ寝ちゃってんのかなと思いつつ小さく揺らしてみれば、すぐ顔を上げた。
起きてたみたいだ。



「ほら、寝よう。もう眠いでしょ?」



腕を取ると、手でひと掴みできた。
細いなあ。ちゃんと食べて――ないな、さっき全然お皿の中身減ってなかったし。


タオルケットを広げて、寝かせた冬獅郎くんの上に掛け、電気とクーラーを消して自分も横になる。

足元の扇風機だけは、微弱のまま回しておく。今宵も熱帯夜だ。



布団に転がって横を見ると、反対を向いて寝ているマイ弟。

初日にして、私は嫌われたのだろうか…。






















まだまだ寝苦しさのある……というか、絶賛真夏真っ只中の夜はぐっすりとは眠れない。


存分に寝過ごしたいのに、翌日起きてみれば、九時前だった。

けれどこれは真夏のせいだけではないなと隣の布団を見てみれば、そこはすでに空だった。



「…早いなオイ」



寝起きの低い声でぼやいて、布団を片付け、着替えてリビングへ。

昨日寝る前と変わらない状態のそこに弟の姿がないのを確認して、風呂場へ。



いない。



ついでに顔を洗ってから玄関に行き、小さな靴があるのを確認。
Uターンして狭い家の中を一周した。



「……いないんですけど」



ちょっと頭の中が白くなってきた。


靴はある=家の中にいる
この公式、合ってるよね?


一旦部屋に戻り、そこに冬獅郎くんのリュックサックがあるのを確認。
次に書き置きの類を探したがそれはナシ。


裸足で外に行ったのか?

外を確認するべく、部屋のベランダに出て下を見回し……



「……いた」



ベランダの隅っこで、パジャマのまま例の中途半端座りをしているマイ弟発見。

何してるんだか、と思ったところで、さっと背筋に冷気が走る。



まさか、ここで夜を明かしたんじゃなかろうか。



「冬獅郎くん、こら、起きなさい」



細い肩を揺すると、昨夜とは違って間を置いて顔が上がる。
明らかに寝てたようだ。



「なんでこんなとこにいるの」

「…………」



ハイ、来ました沈黙。本気で口がきけないのだろうか?
彼の腕を引けば、すんなり立ち上がった。



「寝るなら布団。もう一回敷こうか?」



だんまり。

こっ、コミュニケーションがはかれない…っ!


とりあえず部屋に入れたら、手も足も汚れていたから、抱え上げて風呂場に連れて行った。……軽い。


風呂場に下ろすと、冬獅郎くんの身体がかたくなった気がした。
風呂嫌いか? そういえば昨日も上がるの早かったな。


シャワーを出し、手を洗わせて肩につかまらせ、足を洗う。
タオルで拭かせた時、不意に思いついて、冬獅郎くんを床の上の体重計に乗せてみた。



「……軽っ!」



ジャスト28kg。
これって、この身長だったらちょうどいいんだろうか?



「朝飯、たんとお食べ」



しみじみ呟いたら、ちょっと不思議な顔をされたみたいだった。


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