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疲れた。本当に疲れた。


学校の文化祭も近づいて、ポスターを貼るのにあちこち回っていたら、今日は殊更帰るのが遅くなった。


おまけにそのポスター掲示回りで一悶着あって、肉体的にも精神的にもくたくただ。





いつもの何倍も重く感じる玄関のドアを体重移動でこじ開けて、今日もまた真っ暗な自宅に足を踏み入れた。

つもりだった。


いつもとの違和感に気付いたのは、ほとんど惰性というか無意識の習慣による行動というかで家にあがって、自室に戻って荷物を下ろしてカーディガンを脱いだ後だった。



自室の電気はついていて、そういえばあった玄関の靴。



はっとして顔をあげたら、冬獅郎くんがどこか訝しそうにこちらを見上げていた。

私もしばらく、首を傾げて彼を見つめ、二人して一時停止状態になった。



「………あれ。冬ちゃん」



たっぷり時間をかけて、口から出たのはそんな言葉だけで。

国語の教科書を前に鎮座していた彼は、まだ首を傾けていた。



「お母さんと出かけなかったの?」


尋ねると、冬獅郎くんが差し出してきたのは何かのチラシ。

どこぞの遠方で開かれている催しらしい。


ははぁ、取材か。


文化の日を迎えると、そこから年明けしばらくまであちこちで行事があって、一番取材が多忙な時期になる。


母いわく、年末年始は日本中が私を殺しにかかる、らしい。



「じゃあご飯まだ?」

コクン。

「遅くなってごめんね、今何か――……」



そこで私の言葉を止めたのは、電話のコール音だった。


慌ててリビングまで駆け戻り、受話器をわしづかみにする。



「はいもしもし」

『あっ、大塚です、こんばんはー』



電話の相手は、マイ弟の担任、大塚教諭だった。
相変わらず明るすぎる位明るい声が、機械にビンビンと響く。



『実は冬獅郎くんのことなのですが…』

「えっ、もしかしてまた何か……」

『いえいえ、そういうわけでは!』



なんだ………驚かせないで下さいよ………

内心ものすごく安堵しながら大塚先生の話に相槌を打っていたが、なんだか電話の内容はいまひとつ要を得なかった。


結局、冬獅郎くんを心配して掛けてきて下さったようだったが、そんな話の内容なので終わりが見えない。

学校ではあれ以来、特に目立って何もないと言われれば、はぁそうですかとしか返しようもない。



しかし何故か話はズルズルとのびて、私はちらちらと時計を気にした。



私が帰ってきた時点で、八時を大きく回っていた。今はもう、9時近い。



冬ちゃんにまだご飯も食べさせてなければ、当然風呂も入っていないはずで。

一人ハラハラとしながら、どうにも自分から話を切り上げるなが苦手な私は、電話を切るキッカケを見いだせずにいた。




結局、電話に母からのキャッチが入るまでどうにも出来ず、この時ばかりは心底母に感謝した。が、母の最後の台詞が、「しろちゃんに断食虐待してんじゃないわよ!」だったことには、正直泣いて違うと言いたかった。



九時十分。

………九時……十………



「うわぁぁあ!」



ゴンッ!! ズリッ



「……い………たい」



急いで部屋に戻ったら、自室の扉が完全に開く前に突っ込んで額直撃。


半泣きで部屋に入ると、また訝しげに冬獅郎くんがこちらを見上げた。



「ば、んごはん、昨日のカレーでも、いいかな…?」



もはや色々力尽きそうになりながら冬ちゃんの横に四つん這いに倒れ込めば、返事がなかった。


顔を上げると、いつもの静かな表情で、真っすぐな瞳をこちらに向けていた。



「ポテトサラダ付けますけど…」



しかし答えはやはり返らず、かわりに教科書を持っていた手がこちらに伸びてきて、額をサラリ。

ぶつけたところが冷たい掌にヒリヒリしたが、肌の上を空気を挟むようにして柔らかく触れるその手に、なんかもう、今日あった色々な事とかで、泣きそうになった。



「ふゆぢゃぁあ〜ん!」



そうだ、このままマイ弟に癒してもらおう。


抱き着いて甘えるべく、いつもは抱え込む小さな体に顔を埋めた。
もちろん冬獅郎くんはそれを甘受してくれるはずもなく逃げ出そうとしたが、それでもしっかり離さないでいると、呆れたように諦めてくれた。

今日はちょっと優しい。



「………冬ちゃん、頭撫でて」

「………………」

「撫でてくれないとお姉ちゃん立ち直れない。ご飯作れない。今日断食になるけどそれでもい」



言葉の途中で、頭に小さな手がおりてきた。

どこかむっとしたような顔で、こちらを横目に見ていたが、不慣れな様子で頭を擦るように撫でてくれた。

二回だけ。



「終わり!?」

「……………」



まあー………いいか。


のそのそと冬ちゃんの懐から立ち上がって、さて、と気合いを入れ直す。



「ご飯にするか、冬ちゃんお風呂張ってきてくれる?」



今度からなにかあったら、慰めてもらおうと、ひそかに決めた。

















。.。.。.。.。.。.。.

違うっ!!(なんだ


違うんです。本当はお客様にご提供頂いた萌えネタを書こうとしたんですが、話が途中から違う方向に………進んでしまった………(計画性皆無


…………また書き直します。スミマセ…!orz





今回はただ、精神的にツライ時にシロがいたら、最高の癒しアイテムだよね、っていう管理人の願望。

癒しが欲しいんです!(自重



次回は麻雀でゲット!した、舞台鑑賞ですかねー。

また行事モノか…………!(気張れ



090216


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