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最近、風の向きが変わりはじめた気がする。


薄い雲のかかった薄い青の空を見上げて、乾燥した風を身に感じて思う。

そろそろ夏の気配も感じられなくなりつつあると軽く息を付き、未だ騒がしい背後を振り返った。




古いが立派な市民会館の裏手にある、職員用の駐車場に停められた、車高の高い四輪駆動車の周りで騒ぐ一団……というといささか語弊がある。

騒がしいのは母上一名のみだった。





十一月三日、文化の日。私達は家族連れ立って市の文化祭に来ていた。

と言っても、俗に言う家族団欒では全然なく、例によって両親の仕事の同伴。

せっかくの学校が休みの冬獅郎くんと離れたくなかった母の、強行手段だった。



仕事は文化祭そのものの取材と、舞台で芸能披露をするどっかの同好会にカメラマンとして依頼を受け、掛け持ちらしい。

そんなに傍にいることも出来ないのは目に見えているのだが、彼女なりの親心と思えば、断る道理もなく、結局同行するに至った訳だ。



「お父さん、だからこっちのカメラ持って行ってってば。それはお昼過ぎてからまた取りに来るから!」



一人でてんやわんやしてる母に、呆れるでもなく傍らで一挙一動を不動で見ているマイ弟。父上は車のリアドアに上半身を突っ込んでいて、表情は窺い知れない。

今まで幾度と両親の取材に同行してきた私にはいつもの光景で、いずれ冬ちゃんにも見慣れた光景となるのだろう。


さて、と私は左手首の腕時計を見下ろした。



「……開館まで後5分でーす」



あっち向いたりこっち向いたりしてる背中に薄情にもそう告げると、一拍の間を置いて断末魔の叫びが秋空に響き渡った。

















最初はまばらだった人影も、すぐに会場は大勢の人で賑わった。

小さい頃に通った書道の先生や、中学の部活の顧問など、知り合いにもよく声を掛けられた。


手を繋いでいた冬獅郎くんはやはり目立ったが、弟と紹介すれば、一瞬目を丸くするものの、出会った人がよかったからか、皆温かい眼差しでそうか、と笑ってくれた。



ただし、帽子で隠れていた彼の白髪を見ていたら、目を丸くする時間は長かったかもしれない。





冬獅郎くんは始終、人形のままだった。

表情がないのも言葉がないのも、身内以外の人に接する時最大限に発揮されるのはいつも通りだったが、別れ際に知人が彼の頭を撫でても、それをはねつけるような事もなく、甘受している様子にほっとしたのは言うまでもない。





「しろちゃん、ちょっと来て」



飛び回るようにしてあちらこちらで写真を撮っていた母が、ちょいちょい、と手招きするのに二人で赴けば、大きな木製の玩具の前だった。



「ちょっとこの写真撮りたいから、後ろ姿でいいから、それで遊んでみてちょーだい」

「サクラだって、冬ちゃん」

「サクラ言うな」



小さい頃は、私もよくやらされたものだ。

最近は特に、ちょっとした写真を掲載するのにも肖像権云々で、例え子供でも写真に写っている本人の許可書がいる場合が多くなったとかで、母がぶーたれている。



もう成長しきってしまった私に代わり、まさに冬ちゃんは都合のいい後釜というところだろう。



「あっちで売ってた、おいしそーな手作りメロンパン、買ってあげるから、ね? お願いっ、しろちゃーんいい子でちゅねー、ハーイそこ動かないでー」



乗り気じゃない冬獅郎くんを、あろうことかメロンパンで釣って、半強制的に玩具の前に立たせる母。の、言葉にドキッとしたのは、外ならぬ私の方だ。



食べ物で釣るなんて………まさに親子というか、血は争えないというか。

ドラ焼きで携帯待受の写真を撮らせてもらったことを思い出せば、若干いたたまれない気になった。


チラッと冬獅郎くんの方を伺えば、まさに今、同じことに思い至っていたというように彼は私を見ていて、目が合った。



翡翠の瞳が一瞬細められて、視線は外れていった。


今絶対笑った。鼻で笑った。



もちろん、そうと分かる表情をした訳ではないのは、無反応な母を見れば一目瞭然。

でも分かる。間違いなく失笑された。



何故か私も引き攣ったニヤけ笑いを浮かべながら、撮影の終わったマイ弟をひっ捕まえて、十八番の抱きしめ固めをしておいた。

が、いつも以上の反抗に遭ったのは言うまでもない。


















「なんか………疲れた………」



結局、親の代理で出張押し花教室に体験に、一人行かされた私は(冬ちゃんは当然のように母に拉致られた)、芸能発表の時間になって、ようやく休憩が取れる形になった。


おそらく別件依頼のビデオ撮影をしているはずの二親がいるであろう体育館に行けば、すでに芸能発表ははじまっていて、体育館の照明は落とされていた。


後ろの方に座ることのできる段差を見つけて、そこでしばらくぼんやり舞台を眺めていたが、やがて冬獅郎くんが体育館の端の通路を歩いているのが見えた。



ちょいちょい、と手招きすれば、冬獅郎くんの方も私に気付いてこちらに歩いてきた。

………いま気付いたが、手招きの仕方まで母上と同じではないか。




横に腰掛けた冬獅郎くんがそれにも気付いたかどうかは定かではなかったが、彼の手にしたメロンパンを見て、瞬時にそんな思考は吹っ飛んだ。


本当に、ほんっとーに美味しそうなチョコチップメロンパン。何と言うことだ、何故私にはないのだ結構働いたのに。




じとっ、と、少し離れた場所でカメラの三脚の後ろに立つ母上を見つめれば、殺気を感じたのだろうか、こちらを振り返って手を振ってきた。


殺気は伝わらなかったらしい。



メロンパンと自分を交互に指差して、私の分のメロンパンを要求してみたが、返ってきた口パクは、売切れの四文字だった。


………その三脚の足元にある丸められた紙袋は、今まさに冬ちゃんが持っているメロンパンの袋に見えるが、母の分が最後の一個だったって事でいいんだろうか。

子供に譲るとかないのか、ちくしょうめ。



むすっとして、今度はゴミと化している紙袋を仇のようにねめつけていたら、目の前に一欠けらのメロンパンが出現した。


それをつまんでいる細い指を視線で辿ると、やっぱりかちあったのは、エメラルドの双眸だった。


ときめいた。お姉さんはときめいたよ。



ちょっと期待してなかったと言ったら嘘だけど、自分から請おうと思っていたから、充分びっくりだ。

思わずテンションも最高に、冬獅郎くんの差し出すメロンパンの欠片にそのままぱくつけば、少し勢いが良すぎて、冬ちゃんの人差し指まで少しくわえてしまった。


唇に触れても分かる細くて若干冷えていた指先は、私の下唇を少しなぞるようにして横に引っ込められていったのが、妙にくすぐったかった。





それから少しの間、何度か口に運んでもらいながら分けてもらって、一緒にメロンパンを堪能した。

途中で面倒になったらしい冬獅郎くんが、メロンパンをそのまま手渡そうとしてきたが、食べさせてもらうことにすっかりハマった私は、子供みたいに無邪気を装って、口を開けて要求した。



チョコチップメロンパンは、私が想像した以上に、美味でした。

















。.。.。.。.。.。.


壁|`;)


壁|つД`;)



……………すみません。すみませんでしたぁぁああああ!!

更新遅かったですよね、分かってます自覚ありました(タチ悪し



今までで1番間があいた…?
年末年始だとか携帯が死にかけだったとか色々理由は有りますが、1番の敗因は、相も変わらず管理人が行事の話が超絶不得手って事です。


最悪ですよねー……
もう二度と文化祭なんか書くか!と思ったら、ヒロインさんの文化祭が控えてるとか何この一人SMプレイ。



……頑張ります。次は早く上げられるよう踏ん張ります。

次は行事の話じゃないので、こんなに間は空かない。はず←
いえ、あけません!それで許して下さいー!!。゜(゜´Д`゜)゜。





アンケはちょくちょく覗きますが、結構管理人と同じ考えのものを見かけて、嬉しびっくりです。

不正投票がたまにありますが、変に増えてたら分かりますので。コメント重視しますから、思いの丈はそちらに下さい!



では皆々様、風邪など引かれませんよう、お気をつけ下さいマセ^^


090128


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