044
天気はやや曇り気味。
だが、これくらいがちょうどいい。これから走り回ることを思えば、ピーカンなんて御免こうむりたい。
ほら、マラソンなんて、小雨位がちょうどいいそうだし。
温暖化かヒートアイランド現象か、最近の夏の暑さは、晩夏とはいえ悪意すら感じるのはなぜだろう。
そう、湿度。湿度が高すぎないか?
「これで………っ最後です…!」
「おー悪いね内田、助かるわ」
思ってない。絶対この人悪いなんて思ってない。
曇りでもその湿度のせいで暑さを感じる中、私はタイヤ運びを手伝っていた。
なんでだろう。何度も言うようだが、私は体育祭の役員及び係員ではないはずなのだが、見事にパシられていた。
素晴らしい肉体美の男子水泳部員に混じって、タイヤ運びを終えた私に、書類チェックをしながら労いの言葉をかけた三年の責任者の先輩は、そう愚痴りたくなるほど気のない様子だった。
「お疲れ様でしたー……」
もう何も言うまい。
体育祭のはじまる前から、既に体力使い果たした観のある私は、体を引きずるようにしてその場を後にした。
そう、今日は体育祭。
十月ももう終わりにさしかかり、他の高校は既に早いところでは文化祭をはじめている時期。
あまりこの時期に体育祭をやる高校も少ないが、理由としては、一年の前半はインターハイをはじめとする部活の大会がびっしりとひしめいているからだ。
学力としては中の上のこの進学校だが、運動分野では結構有名でして。
三年生なんてそれこそ進路かかってますから、体育祭なんぞの練習が出来るはずもないのです。
まあどのみち、今時期は受験組のスパート期間ですから、三年生は基本空気ですけどね。
ほとんど惰性で動いているような歩調で、SHRのために教室へ向かっていると、後ろからバタバタと元気のよい足音が数人分聞こえてきた。
「祐ー!」
振り返れば、そこにいたのは花牧さんを先頭に、いつぞやの塾メンバー女子。
これから言われることを悟って、更に疲れが増した気がした。
「ねぇねぇ、今日弟くん来るの!?」
アハハ、やっぱり。
「来る……かな?」
いや、来ますけど。なんですか、会いに行く気ですか?
「やったー!!」
あ、バリバリ行く気みたいですね。
「あの苺大福みたいなふわすべふにふにのほっぺた触る!」
「私絶対ケータイで一緒に撮ろーう」
「あっ、私も! 普通のカメラでも撮りたいな」
全部全力で拒否しそう。
自分のケータイ待受は誰にも見せられないなと思いながら、でも他の待受に変える気にもさらさらなれず。
苦笑を浮かべて激写拒否の姿勢を薄らと表現してみたが、誰にも相手にされなかった。ちくしょう。
逃がす算段を頭の中で組み立ててみるも、
「祐は女子バスケだよね、予選は第二体育館で十時から! みんなで応援行くから楽しみに待ってて」
語尾にハートの付きそうな口調で言われ、しっかり把握されてた私の出場予定にため息。
マイ弟を逃がすのは難しそうだと思いながら、応援じゃなくて弟目的じゃないかと突っ込んでおいた。
十時十五分を回って、先の予選A組の試合が長引いた為、私は予定の時刻よりもわずかに遅れてコートに入った。
体育館のギャラリーを見渡してみたものの、両親の姿はおろか、あの目立つ白髪すらも見当たらない。
第二体育館への道順は少しややこしいから迷わないように、とは言っておいたものの、やはり迷ったのだろうか。
試合前、ベンチ代わりのパイプ椅子の上に荷物を置いて、携帯をチェックしてみると、新着メールがあった。
『行けない!』
たった一言のメールは母上から。
ああ、そうですか………と携帯を閉じた。
まあどうせ、緊急の取材かなにかあったのだろう。
試合開始の呼びかけに、スタメンの私はコートの中へと入って行った。
ドタキャンされた私には、仕事が選べないって大変だなぁという思いしかない。
この歳になって、フリーカメラマンという職業の大変さを分かりはじめて、ほったらかされてもいじけるような気持ちは生まれなくなった。
さすがに小学生の頃は寂しかったけれど。
今は無事に家に帰ってきてくれれば、それでいい。
「祐!」
子供の頃からの行事を取り留めもなく思い返していたら、突然頭に衝撃が走った。
思わず声を詰まらせて頭を押さえれば、足元に転がるバスケットボール。
ああ、直撃したのか。
「大丈夫!?」
駆け寄ってくる仲間に申し訳なく思いながら、衝撃が去って痛みも引きはじめた頭を冗談混じりに撫でて見せれば、皆失笑をもらして笑いに変えてくれた。
元々運動神経がいい方でもない私は、それをキッカケにメンバーチェンジされてベンチに下がった。
試合はそれ以降、調子を崩したようにズルズルと点を入れられて、チームはさっさと初戦敗退してしまった。
「………帰るかぁ」
負けてしまって、他に出る種目もないため、誰にともなく呟いて荷物を手にする。
帰りにHRはないが、試合が終わったからと言って勝手に帰っていい訳もない。が、居留まったところでまたいいようにパシられるであろうことを思えば、意地でも帰りたくなってきた。
うん、帰ろう。
引きずるように荷物をパイプ椅子から降ろし、そのまま重い足取りで体育館を出た。
小学校と違って、父兄よりも断然他校の生徒が目に付く人込みをかわしながら、体育館の裏から学校の敷地外へ出ようと足を進める。
俯き加減で歩いていたそんな私の視界に、不意にコロン、と小さい何かが転がり出た。
反射的に顔を上げれば、小さな相手もかぶっていたハンチングキャップの縁から真ん丸な目を覗かせた。翡翠の、瞳。
「冬ちゃん!?」
まさか来ていたとは思わなかったと、思わずも声をあげれば、冬獅郎くんは物怖じしたようにわずかに首を引いた。
「え、あ、一人で来たの?」
まだ少しばかり気の動転した私がしどろもどろになりながら尋ねれば、顎を自身の鎖骨に押し付けるように引いた。
返事というよりは、更に畏縮したといった感じだ。
「そ、そっか、私もう試合終わっちゃったんだけど」
そう言えば、今度は遠慮がちに頷くのが見えた。
その仕草に首を傾げる。
「うん? 見てたの?」
尋ねなおせば、また頷いて紙を一枚差し出してきた。見れば、朝に母に渡しておいた、第二体育館への地図だった。
これを見ながらここまでやってきたらしい。
なんだかちょっと感動していると、冬獅郎くんが少し背伸びして、そろりと白い片手を延べた。
地図から目線だけ上げると、その華奢な腕はわずかに遠慮がちにふらついてから、私の頭に触れた。
撫でるというよりは、まさぐるように側頭部を指先で摩られて、ぽかんとしたまま冬獅郎くんを見つめていたが、
「もしかして、バスケットボールヘディングしたの見てた…?」
聞けば、躊躇いもなくコクンと頷きが返ってきた。
そこを遠慮して行こうな。
「いやぁあ〜、もう忘れて! はい忘れて! よし忘れた!!」
マイ弟の頭を捕まえて、嫌がるまでぐるぐるに撫で回し背中から抱え込んで両肩を一発叩いて置いた。
それから花牧さんに見つかる前に早々に早退させていただき、母にコーディネートされたらしい、普段よりお洒落な服のマイ弟と手を繋いで帰った。
夜になり、家で晩御飯の仕度をしようと冷蔵庫を覗いていた時、玄関の扉が派手に開いて、騒がしい音がなだれ込むようにリビングまでやってきた。
「祐っちゃぁあ〜ん!!」
ギョッとして野菜室から顔を上げると、そのまままさに猪突猛進の勢いで母上に抱き着かれた。
「今日はゴメンねぇ〜、文化祭は絶対行くから!!」
アフロにするつもりかという位に頭をかき回す母に苦笑しながら、期待しないで待ってますよ、と可愛くないことを言った。
「さぁ、行くわよ!」
私をギッチリ抱え込んだままの母上が、素晴らしい切り替えでまたすぐに踵を返して玄関に向かう。
引きずられる私は慌てて母を見上げた。
「行くってどこへ!?」
「どこって、蛸庵に決まってんでしょ!」
当然と言わんばかりに宣言した母は、奥から顔を覗かせた冬獅郎くんを呼び寄せ、たった今玄関に入ってきた父上をスルーするように横を通り抜けて、意気揚々と蛸庵に向かった。
どうやら私も、存分な位に過保護に愛されているらしい。
。.。.。.。.。.。
遅れまして申し訳ござまぁあああ!!!(ちゃんと喋れ
いや、もうホント間あきまして。
言い訳の余地もございません。
とりあえず蛸庵言ってたらタコ焼きが無性に食べたくなった深夜11時。
でも蛸庵、メインはお好み焼き屋ですからね。
よく、大阪の人って皆家にタコ焼き機あるの?って聞かれるんですが、あります。間違いなくあります。ホットプレートと同じ位あります。ていうかホットプレートと同じ感覚です。
引越して調理器具と一瞬にタコ焼きプレートも買い直しましたよ。でも見つけたのが百均だったっていう。
そしてお好み焼きもラーメンもオカズです。ご飯と共に食べます。
親がね!←
私はそんな食えません。
でもよく考えてみれば、ラーメンにご飯て、炭水化物×2ですよね。パンにご飯食べてるみたいな。
なんか昔そんなCMありましたね………邪道だ!って。セガ〇ターンでしたっけ?
まぁ、それで晩御飯がラーメンの度に、母は私に聞きはるんですよね。「ご飯いる?」って。
08107
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