041



「ねぇ、召集っていつなの? もう始まっててもいいんじゃないの?」

「召集って……軍隊じゃないんだから。まだよ、やっと三年生の親子競技が終わったところでしょ」



午後の部がスタートしてから、母が今度は自分の出番はまだかとうるさくなった。

本当にいつ見ても元気な人だ。


ついでに言えば、昼休みにひどく長い時間かかって帰ってきて謝れば、「あら、居なかったの?」というのが母の第一声だ。

もっと言えば、カメラの調整に余念がなかった父も、何も言わなかったが似たような感想だったのだろう。
少し焦ったような苦笑を浮かべて私を見上げていた。



そうね。あなたたちの頭には、冬獅郎くんのことしかないものね。



四年生の親子競技、借り物競争を見ながらため息をつく。

こんな時ばかりは、それを見咎めた母からやんやの批判を受けたが、一度下がったテンションが上がらないのは仕方ない。

冬ちゃんがあんな風に見られているなんて、気付かなかったのだ。


―――紅白帽の名前か。



もうちょっと気を配っているべきだった。

紅白帽や上履きなんてものはどこの学校も大して変わらない物だから、特別買うなんて頭もなかったけれど。


ってあれ? 上履きにも前の苗字書かれてたっけ?



「祐ちゃん、二人の出番だよ」



お父さんに小突かれて顔を上げれば、確かにもう五年生の親子競技に移っていて、母はとっくの昔に隣から姿を消していた。


グランドには、冬ちゃんの手をしっかり握ってやる気まんまんの母上と、いつもと変わらない様子の無表情な冬獅郎くんの姿。


父上は隣でしっかりカメラを構えて、微動だにしない。



カメラを回している時は、ぶれるとかで一言も喋らなくなるのはいつものことだ。

プロ意識が高いというかなんというか。



結局私一人で二人を応援したが、なぜかスプーンの上に乗せたピンポン玉なんて軽いものを、全く落とすことなく全力疾走で駆け抜けた母に、果たして応援が必要だったかは分からない。


冬ちゃんなんてスプーンに手を添えて一緒に走っただけ。
完全に母メイン。



私とは反対に運動神経抜群の母だから、大人と比べても足の速い冬ちゃんと二人でグランドを風のように駆け抜け、明らかに異様だった。



……なんだか、途中で応援しているのが恥ずかしくなってやめた。



次の走者にバトン代わりのスプーンを手渡した母は、同じチームの保護者と子供に賛辞を贈られ、英雄のごとく称えられていた。



「…ねぇ、なんでお母さん、あんなにスプーンリレー上手いの?」



思わずもぼやいてしまった私に、ビデオを撮り終えた父はなんでもないと言った風に答えた。



「取材先で、親子競技の話を聞いた瞬間から練習してたからね。わざわざピンポン玉買って、現地の子供まで巻き込んで」



ホテルのスプーンを勝手に使って怒られてたなあ、なんて話まで聞かされて、もう感心すればいいのか怒ればいいのか分からなかった。


そりゃあ、ぶっちぎりのはずよね…。

















最後の障害物競争は見物だった。

冬ちゃんの運動神経は抜群だと、諸々の事件でよく分かっていたので、何の心配もしていなかったのだが、存外の活躍ぶりにポカンと口が開いたまま閉まらなかった。



十二段の跳び箱は手を使わないで駆け上がって飛び越えるは、平均台は平地かの如くに数歩で走り抜けるは、バスケットボールのドリブルは、まるでボールが体の一部かのよう。


一人だけ普通のリレーみたいに颯爽とグラウンドを一周して、次の走者にタスキを渡した。



堂々のごぼう抜き。



父上はカメラを回すのに真剣だから反応は窺い知れなかったが、母上は応援に熱が入りすぎて、途中からおっさんの競馬応援みたいになっていた。


せめて外では、口が悪いのも大概にしてほしい。





「まあ、でも今日は3連単の大当り、かな」

「え、なに?」



運動会の後、レジャーシートを片付けながら呟いたのを母に聞き咎められたが、苦笑して首を横に振った。


先ほど顔を合わせた大塚先生の話によれば、冬獅郎くんの百m走のタイムは、歴代記録の上位に入ったのだとか。



大穴と言えば昼休みの事件にオレンジ少年のダークホースだが、放置は出来ないながら、冬獅郎くん本人に何をどう言えばいいのかもよく分からない。





紙袋に荷物を放り込んで、解散したらしいマイ弟と合流してからいざ学校を出ようとしたとき、



「内田さぁん」



一人のご夫人に声をかけられた。


保護者らしきその人の横にはかわいらしいお嬢さん。
冬獅郎くんと同じ学年位だろうか。



「あら、どちら様でしたっけ」

「同じ組の藤崎と申します。二学期のPTAの集まりにいらっしゃらなかったから、多分顔を合わせるのは初めてだと思います」



うちのお母様とは正反対のとてもおしとやかな母君は、そう言ってにっこり笑った。



「まあそれはそれは。忙しくて一度も出席出来ませんで」

「いつもニュースを拝見させていただいてますわ」



おほほ、と余所いきの笑いで意味もなく盛り上がるマザーズ。


藤崎ママの隣では、藤崎嬢が熱い視線を冬獅郎くんに送っていたが、私の横に棒立ちの当人は、いつものごとくの無表情、無関心。


罪作りな坊やだ。



「これから帰られるんでしょう? ワゴンで来てますから、乗っていかれませんか?」



藤崎ママの言葉に、一瞬ウチのママ様が動きを止めたのが分かった。



「………いえっ、大丈夫ですぅ、近いんで」



じゃっ! と片手をあげて素早くその場を後にした母を、藤崎ママが呆気に取られて見送った。


それになぜか私と父上が頭を下げて詫びを入れ、冬獅郎くんを連れて足早に追う。



視界の端で藤崎嬢がものすごくがっかりしたのが見えたので、車への同乗は彼女の提案であろうことが察せたが、まあ残念だとしか言えない。













「非常識だわ!」



四人並んでの帰り道、もちろん徒歩でてくてく歩きながら、我らが母上が声を上げた。



「駐車場もろくにないのに運動会に車で来るなんて、歩きで来なさいよ! 子供が通う程度の距離、温暖化防止に貢献しなさいよ!」

「母君から非常識なんて言葉を聞こう日が来ようとは」



呟いたが、怒れる母の耳には入らなかったようで、見事にスルーされた。



「もうっ、しろちゃん、このまま蛸庵に直行するわよ!」



肩をいからせて道をずんずんと行く母(荷物は全て私達に持たせて)に、冬ちゃんが意味を問うようにこちらを見上げてきた。



「蛸庵ってね、近所のお好み焼き屋さん。運動会とかの行事の後にはたいていそこに行くのよね」

「冬獅郎くん、見たことあるんじゃないかな、通学路からポストのある角の横道にある、大きなタコの提灯のある小さな店だよ」



父上の言葉に、覚えがあるらしい冬獅郎くんはああ、という顔になる。


夕暮れの通学路に、一人身軽な足取りで先頭を行く母を追う、三人分の影が長く伸びた。

















。.。.。.。.。.。.。.。.


やっっっと運動会終わったぁああよ!!(ノ>д<)ノ


いやなんかもう、行事て大変です。書きたい部分だけ書く訳にもいかないんで、普段の何倍もだらだらgdgdしてしまってるかと思いますが、勘弁してやって下さいマセ(´〜`;)


なんかこう……最初から最後まで書いてしまうクセが、あるんですよ管理人。


中学の修学旅行の作文(?)も、なんかgdgd書いてしまって、11枚も書いちゃったんですよねー作文得意でもないのに。

なんかほとんど遊園地の絶叫マシーンが酷かったって話に終始してた気もしますが。





もっと重要なところだけ上手く書けるように、頑張ります…orz




まあそんな訳で、次回は日常を書きたいと思いますってか、書いてます。

萌え。萌えが欲しいのだよ私が←




BGMは悪ノ召使(´∀`)


08.6.8


- 41 -
|
back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -