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「もう、本当にお母さんが隣でうるさかったんだから」

「運動会でしけた応援してどーすんのよ。祐なんてねえ? 走ってる間中ポケーっとしちゃってまあ」



私が作ったおにぎりを口に詰め込みながら、嗤ってくださった母。口から米粒落ちてますよ。



「いやあ、だけど冬獅郎くんがあんなに足が速いとは知らなかったなあ。かけっこは得意なんだね」


女二人の陰湿な空気を察することもなく、朗らかな調子でだし巻き卵を口に運ぶ父。



「……………」



無言、無表情でタコさんういんなーを食べるマイ弟。

なんともちぐはぐな昼食風景となっております。




昼食前、親と食べるなんてダサいー、なんて雰囲気で数人で固まっていた女の子達が、冬獅郎くんを食事に誘い出そうとしていたが、無言の鉄壁の前にあえなく崩れ去っていた。


可哀相、なんて思う余裕があるのは、当然冬獅郎くんが何の迷いもなく私たちの所へお昼を食べに来たからで。



いつものように白髪をなでたくろうとしたら、母が某東大出の動物博士の如くに首根っこ抱え込んで出迎えたので、私は触れることすら出来なかった。なんてことだ。



「冬獅郎くん、ちょっといいかな」



私がちょうど二つ目のおにぎりを食べ終わった時、私たちのレジャーシートに先生がやってきた。


フレンドリーで、いかにも小学校の先生、ていう感じが全面に溢れているその人は、まぎれもなく冬ちゃんの担任の……



「大塚、先生?」

「こんにちは」



ニッコリ笑って、頭を下げる。
名前は合っていたようだ。


以前に電話越しに会話したそのまま、人懐こいような溌剌とした笑顔を浮かべている。



「冬獅郎くん、午後の部の大玉転がしの用具係でしょう。悪いんだけど、ちょっと早めに来てくれるかな、欠席した生徒がいて、今からやらないと間に合いそうもないんだ」



ああそうか、高学年は役員はじめ、応援合戦やら何やらやらなくちゃいけないんだっけ。


あからさまに残念そうな顔をした母が、文句を言い出す前に私は冬ちゃんの背を押した。



「行っておいで、一応お弁当残しておくから、早く終わりそうだったらまた食べに戻ってきてね」



そういうと、仰ぎ見るように首を後ろを向けて、冬獅郎くんが私を見た。


まっすぐで真ん丸な翡翠の瞳が、じっと私の瞳をとらえた。
いつもの彼の癖のようなものだから、普段と同じよえにその瞳を見つめ返していると、

そう長い時間も置かずに、視線は前へと戻っていった。


……いや、いつもより一拍、長かったかな?




冬獅郎くんはすでに濡れタオルで手を拭き、立ち上がって靴を履いていた。


大塚先生と本部テントの方へ去り行く彼の背に、早く戻ってきてねーと母が声を掛けた。



少し離れたところでは、昼休みになるのを狙っていたのか、幾人かの女の子たちが冬獅郎くんがレジャーシートを先生と共に離れていくのを、残念そうに見ていた。


それと、弟か妹の応援に連れて来られたのだろうか、数人の男子中学生が、今は紅白帽をポケットに突っ込んで、その見事なまでの白髪を惜しみなくさらしているマイ弟を、冷やかすような目で眺めていた。




なんだか、誰なのか、どの部分なのか分からないけれど、

――――『違和感』。

















。.。.。.。.。.。.。


パソで書いたので、台詞外文章が長ったらしいです。
39話酷いことになってます。
ご容赦を(;___)



早くしないと日付が変わりそうな、23時47分。

ひぐらしの鳴く頃にの奈落の花を聞きながら




08.5.18


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