035



夕食後、必死こいて宿題をしていた時。
不意に呼ばれる声がした。


自室で一人、受験対策を名目についにエンジンかかりはじめた宿題地獄に挑んでいた私。

明日は休みなれど、文化祭役員仕事の名の元に体育祭準備に借り出されるから、あまり時間がない。

そう、時間がないんです母上。


宿題中、そう声を返したら、



『宿題なんかより家族の親睦を深める方が大事よ!』



絶対隣三軒まで聞こえてる大声が返された。



うんまぁ……そりゃね、申し訳ないと思ってないわけじゃない。


冬ちゃん引き取ってすぐに両親は仕事で家をあけて、二月近く冬獅郎くんと二人で過ごして、突然また家族四人になったのだ。
戸惑っているであろう冬獅郎くんの傍にいた方がいいのは分かっている。


でもね、この英語の宿題やり遂げないと、単位落とすんですよ。ここに来てそれは辛いんですお母様。



「祐ーーー!!!」



あ、今絶対三階下まで聞こえた。絶対明日あの噂好きのおばさんに話のネタにされる。





がっくり肩を落とし、私は降参してほとんど意地でかじりついていた机から、ようよう立ち上がった。

















「あぁ、やっと来た。もー遅いっ!」

「………さようなら」

「ちょちょっ、待ちなさいって」



なんで。なんで待たにゃならんのですか。





居間に行ってみれば、卓上に広げられていた緑の四角い布。

並べられていた白の四角い牌。



宿題ほって麻雀やれって言う親がどこにいますか。



「ちょっとー、せっかく家の中で人数揃うんだからぁ。四人家族の醍醐味ってもんでしょ。賞品あるから」

「根本的に色んなこと間違ってると思うよ」

「パパがあんまり言うから、さっきまでは三人打ちしてたんだけど、やっぱり四人でやらないと麻雀の神様に怒られると思うのよね」

「私は現実問題、先生に怒られると思うのよね」

「先生なんて困らしてナンボでしょ。それが青春ってもんよ」

「普通止めますよね。それが母親ってもんですよね。大体、私だけならともかく、冬獅郎くんまで巻き込んで……」



小学生に何させてんだこの人は。
下手したら博打遊戯ですよ? 子供にやらせることじゃないでしょうが。



「あんた、しろちゃん馬鹿にしちゃダメよ。なかなかの強敵なんだから」

「………はい?」

「まあまあ、ね? だから座れ」



強制着席。
&試合開始(泣)

















「メンゼンチンツモホウ立直チートイツ……」

「7400、だな」



いやいやいや。え…?

結局巻き込まれた麻雀大会。私だって、まともに役なんか覚えてるわけじゃないけど、悲しきかなこんな母親のおかげで一応麻雀打てる悲しい高校二年生なんです。

花の女子高生が麻雀だなんて……

何度も言いますけど、下手したら博打ですからね?
一般に同年代の人々が麻雀なんて全然知らないと知った時は、自分の家庭環境を憂いたものです………ってそういうことじゃなくて。



さっきから、上がるんです。マイ弟が。



役満・満貫・跳満大繁盛。
……………私だって小学生の時、こんなに打てませんでしたよ。

それを裏付けるように、この辺じゃセミプロにだって引けを取らない位の実力をお持ちの母上と張り合っておられます。

二人して意味不明な役で上がりまくり。

父と私、点数取られまくり。



「しろちゃん、なかなか豪胆な打ち方するわねぇ。憎めないわあ」



言いつつ、勝負師で負けず嫌いの炎をメラメラと燃やしている母。
バシン、と南の牌を捨てる。



「あ、それでカン」

「でももう流局だよお父さん」

「え、あ」

「もうっ、折角テンパイだったのにっ」

「立直かけろよ」

「だって絶対ロンじゃないと上がれない気がしたんだもん」

「またノーテン………」

「ほら混ぜて!」



ザラザラザラ………



母上が燃え上がってしまって、なんだか怖いです。


一方でいつものように無口ながら、勝負では一歩も引かないマイ弟。

いやほんと、すごい打ち方するんです。
なんだかこっちの手まで操られてる気分………





「トイトイホー!」

「お、珍しい。お父さんが上がった」

「そんなつまんない役で上がってんじゃないわよっ、男でしょ!? 男ならロンじゃなくてツモる位の心意気を見せなさいよ!」



母上………折角父上が上がったんだから許してやって下さい………



「あ、九種九牌。………ごめんなさい」



手を見た瞬間、成立してたので表に向ければ、母上にすごい目で見られた。

これ位じゃないと上がれないんだから勘弁して。国士無双揃えろっていうんですか。







「リーィイチ!! おっるぁあ、きたおいおいおい!!」

「ポン」

「チー」

「…………(カン)」

「てめぇらぁあ! 寄ってたかって鳴き入れてんじゃねー!!!」

「だって………」

「どう見たって牌効率見定めた感バリバリの一発狙いじゃないですか。お母さんの得意技」

「〜〜〜〜っ、次!!」



さすが。普段からお母さんの打ち手を知らない冬ちゃんも、狙い目を見抜いている。

なんてつわもの………じゃなくて、口が悪くなりはじめた母はとんでもない役を揃えはじめるからな……

今日寝れるかな………










「うっわ……ファンパイドラホーテイラオユイ……」

「また冬獅郎くん、満貫かぁ……」



13000点、冬獅郎くん上がり。





「立直断ヤオサンソートンシュン!」

「……お母さん。別に意地張って満貫返ししなくたって」

「甘いわね、子供の内に社会の厳しさを味わっておかなければならないの」

「むしろ大人げない大人を知る勉強よね………」


11200点、母上上がり。





「……………」

「………ち、チンロートー……」

「清老頭!?暗刻で!?」

「はじめて見た」

「……………単にジュンチャンから運が向いたんでしょ」


役満、冬獅郎くん上がり。





「トリプル役満!!」

「いやいや、これアウトでしょ」

「爆ドラは無し」

「えぇぇええ! 酷い、そうやってみんなしろちゃんの味方なのね!」


母上、ローカルルール役上がりにより無効。





「…………なにこれ」

「十三不塔、だな」

「そんな役あったっけ?」

「中国ルールだけどね」

「はいアウト!!!」


冬獅郎くん、認定外役で無効。





「チンペイコー!!!」

「だからっ! 清盃口もローカルルール!!」

「何言ってんの、六飜よ!!?」

「余計に認められるか」


母上、認定外役にて以下略









「こ、これでラストね………」

「なんですって……!?」

「ムリ、体力気力の限界………」



冬獅郎くんの快進撃ぷりを見てるのも楽しかったけど、母のテンションに合わせて全力で麻雀打ってたら、バテました。


というか、もう夜が明けるんじゃないだろうか。

家族四人で徹マンかよ………。





「ポン……」

「アンタ、安目でさっさと上がろうとしてんじゃないわよ……」

「ふっ………この上、大三元なんかが揃ったところで私の総合得点はマイナスなのよ……!」

「勝負師とは最後までプライド高く挑み続けるもんなのよ……!」




そりゃあなたは私達とは遥か遠い次元で、冬ちゃんと接戦演じてますからね。

二人のいずれかが、平和なんて安目でも上がりさえすれば、その時点での優勝が決まる程に。






ああ、もうだめだ、睡魔と疲労に負ける………



目の前の牌の文字がぼやけ、歪んだ時、遠くからお父さんがツモと言ったのが聞こえた。

















次に目を開けた時、既に日は高くのぼり、朝と呼ぶにはいささかおこがましい時間となっていた。


なんだか節々痛む体を起こし、重い頭を巡らせてみれば、卓を囲んで見事に他の三人が寝こけていた。



自分の牌を見てみれば、ポンとチーが明刻状態のものすごい安目。

それがそのまま放置されているということは、あれきりお開きになったようだ。



確か、お父さんがツモったんだっけ……いつもロンでしか上がれないお父さんが。

意外に思ったから、半分意識手放してた頭でも覚えている。



そうしてふっと正面お父さんの手を見れば、牌はこちらに背を向けたまま、役は見えなかった。

最後に牌を倒す気力さえなかったのだろうか。


しかし右隣りに並んだ牌を見て、昨晩の不思議は氷解する。



「だ……大三元……」



右隣り、卓の下に足を入れたまま寝転がってるマイ弟を見下ろし、感嘆の息をついた。



「こんな高目狙わなくても、上がりさえすれば勝ちなのに」



なかなかの負けず嫌いらしいと微笑をもらし、白髪を撫でれば、少し寝返りうった冬獅郎くん。

ふと、その片手になにか握られていることに気付いた。



「舞台のプレミアチケット…?」



近代文学の傑作を舞台化……って、これ私が好きな話。

ちくしょう、これが賞品だったのか(泣)








その後、遠く鳴り響いたケータイに呼ばれて、私は遅刻していたすぐに学校に走ることになったのだけれど、頭の中はいかに冬獅郎くんを買収する方法を考えていたり。





ちなみに二人一組のそのチケットは、夜更けにまたしても私をはぶいて外食行ってやがった三人が帰ってきた後、私が何も言わなくても冬獅郎くんが私にくれました。



買収なんて考えてごめん。一緒に行こうね。



もちろん、あらんかぎりの力で抱きしめておきましたよ。









〜後日談〜

「ところで、あのチケットどうしたの?」

「うーん? 新聞社に取材内容売りに行ったら、仲いい女の子が譲ってくれた」

「ワオ、なんてステキ横流し」

「ホントはこっそり私がしろちゃんと行くつもりだったんだけどぉ、しろを麻雀参加させるのにエサがなくて。アンタが好きな題材の舞台だって言ったら乗ってくれたのよ」


ってことでした★

















。.。.。.。.。.。.。.。

何かと忙しい季節、皆様いかがお過しでしょうか…

運動会まで一気更新するとかほざいてましたが、結局話が行き当たりばったりで筆の向くままノープラン★なので、なんだかんだ次回がおそらく運動会です←←


うーむ、フラグ不足どうしよう(自己責任




あ、麻雀については、色々間違いあるかと思います。点数数えるの放棄したんで、ドライチかドラドラかわかんねー、とか←

管理人も詳しくないので、間違い多々あるでしょうが……気がついたら教えてやって下さい、直します(´∀`)


ヒロイン母が出てくると、どうもギャグテイストになるのは母上クオリティです。ご了承下さい(どんなクオリティ






現在、ノーパソを買うか協議中なのですよ。
例のデータ全消し事件以来、買っちゃえよ★と悪魔の声が(笑)

あと一、二年は今ので我慢するつもりだったんですけど。

でも、いっそ買うならペンタブも買ってしまおうかと(ノ∀<*)
ノーパソ&ペンタブの出費は痛いですけどね(;>_<;)



せっかく複合機とかもあるんで、色々やってみたいのです(´∀`)



08.3.27


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