030
夜中に急に目が覚めた。
それまで眠っていたのが自分でも嘘みたいに、ぱっちりと目が開いた。
シンとした暗闇を前にして、少しの間、見るともなしに天井を見上げていた。
あまりの眠気の無さに、いつから目が覚めていたのかすら分からなくなってきそうだった。
しばらくすれば、周囲に向けられた意識から、遠くに時折車の走行音などが微かに聞こえてくる。
低い風のようなその音を聞きながら、妙に清々しい気分に深く息を吐き出した。
その時、ふと耳に入った小さな衣擦れ。
何気なく横に並べられた布団に目をやった。
最近では一緒に寝ないことが珍しく思えるほどの共寝の回数。
今日はその珍しい日だったのだが、こちらに向いた小さな背中を何とはなく眺めている内に、違和感に気付いた。
………強張っている?
語弊は感じるものの、何と言えばいいのか、少なくとも安眠しているようにはとても見えなかった。
上半身を起こし、手をついて冬獅郎くんをそっと覗き込んだ。
闇に沈んだ室内で、表情は分からない。けれど眠っていないことは一目瞭然だった。
「冬獅郎くん?」
夏の暑さのせいではない汗をかき、細い首に白い髪を張り付かせて、わずかに震えた呼吸は細かった。
体調が悪いのかと、肩と背に手を添えれば、全身に汗をかいているのがシャツ越しにも分かった。
「冬ちゃん」
顔にかかった髪を払うのに伸ばした手が、それまでシャツの胸元を握っていた白い手に乱暴に押し返された。
その反応に、私は全く動揺はしなかった。
単に動揺するだけ頭が回っていなかったのかもしれないが、どのみち回る必要もなかった。
ほとんど反射で拒絶反応を示したと思われる本人が、押し返した手でそのまま逡巡するように動きを止めたからだ。
私より、本人の方が動揺したみたいだ。
「具合悪いの?」
先程と同じように、ゆっくり柔らかい声音で尋ねる。
肯定の反応はなかったが、否定の様子もないところを見ると、やはり何でもないというわけではないようで。
額に手をあててみたが、熱はない。嫌な夢でも見たのだろうか。
熱を計った手でそのまま髪を撫でてやりながら、そういえば、と昔のことを思い出す。
子供って、よく眠れない時がある。
眠くて、寝たいのに寝れない。
小さい子はよくそれでぐずったりするけど、こういう場合は無理に布団の中に入っていても、余計に苦しいだけだ。
「ほい、冬ちゃん」
いやに体温を低くしているマイ弟の両手を取り、怪訝そうに半端な力で握り返した少年を引き起こした。
そのまま一緒に立ち上がって、タオルケットを白髪の上からすっぽり被せ、片腕に抱き上げた。
……相変わらず軽いしちっちゃいし…。
細腕とは言わないが、少なくとも逞しくはない私でも、冬獅郎くんに首に腕を回させれば、抱き上げるのはさほど困難なことではなかった。
だってこの子、今体重二十kg前半ですよ。余裕すぎて涙が出ます。
机に置かれた学校で借りた食育関係の本を視界の端に見ながら、ベランダの鍵を開けて外へ出た。
九月も下旬ともなれば、夜に蒸すような熱気は薄れている。
涼しいとまでは言わないが、吹く風は心地よい。
網戸だけをしめ、百万ドルとはいかないものの、それなりに結構なベランダからの夜景。
七階からだとだいぶん遠くまで見渡せる。
なんとなく鼻歌なんぞ歌いながら、左右に体を揺らしつつ、夜の眺めを楽しんだ。
真夜中に観月と洒落込むのもたまにはいいものだ。
自然の雄大さも、はたまた大都会の夜景のような壮大さもないが、いつもと様相の違う町の景色に、静かな闇に浮かぶ欠けた月が、こんな場所でもずいぶん神秘的に見えた。
マイ弟を抱えた片腕をもう片手で支えながら緩やかに揺れ、しばらくの間夏の夜に酔いしれていた。
やがて、とんだ獲物に出会った蚊に邪魔されて我に返り、腕の中のマイ弟を見下ろせば、すっかり汗も引いて呼吸も表情も穏やかになっていた。
まどろみまではいかないものの、うん、もう大丈夫。
集まりはじめた蚊から逃れるように部屋に入り、冬獅郎くんを腕に抱いたまま一つの布団にもぐりこんだ。
眠気は感じていなかったというのに、すぐに遠ざかりはじめた現実の気配の最後に感じたのは、寄り添う暖かく柔らかな温もりが私のパジャマの裾をそっと握った気配だった。
。.。.。.。.。.。.。.。.。.。
えーっと。なんかもうすみません(___;)
ヒロイン夢かよ、みたいな。
愛を与えてるのヒロインばっかり。
ま、まだシロが歩み寄り段階なので、許してやってください(;´・`)
情けは人のためならず、もう少し大人になったら、シロがキッチリ三倍返ししてくれると思いますので(未来頼み
08.2.17
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