029
「はぁ〜…、よっこいしょ」
学習机の椅子に腰掛け、言ってしまってから、あ、と呟いた。
よっこいしょって自分、家事疲れのおばさんか。いやまぁ、実際そんな感じですけどね。
今日位は許してやってほしいと、内心で弁解する。
体育祭の後の文化祭で、なぜかクラスから役員に派遣されてしまったため、今日は帰るのが遅れた。
その足でスーパーに行き、帰ってそのまま夕食の支度に取り掛かって、なんだかんだが片付いたのはたった今。
十七にして肩凝りが治りません。どうしませう。
もう一度深く息を吐きながら、机の上の、小学校からのプリントをわしづかみにして絨毯に寝転がった。
……なにぶん、疲れているもので。
しかし、そんな時に限って邪魔が入るものなのだ。
RRRRRR...
少し遠くに聞こえた電子音に、半泣きで嘆息。
たった今手に入れたばかりの極楽を手放し、ようようと言った具合で立ち上がった。
本当に家事疲れのおばさんみたいだ…。
「はいもしもし、内田です」
けたたましく呼び続けていたリビングの受話器を手に取り、下がりきっていたテンションを無理矢理上げて、声を出した。
「あ、もしもし、第一小学校の大塚と申しますが」
大塚?
誰だそれ、と思いかけて、すぐに先程まで手にしていた冬獅郎くんの連絡帳を思い出した。
ああ、彼の担任の先生ではないか。
「あ、いつもお世話になってます」
危ない危ない、ここで分からなかったら、家事疲れのおばさんどころか、ボケはじめたおばあさんまで老いてしまうところだった。
相手は私の逡巡に気付いたかどうかは分からなかったが、にこやかな声で同じような常套句を返してきた。
「それでですね、実は必修クラブの申し込みの件なのですが……」
「必修クラブ、ですか?」
具体的な話が掴めず、そう聞き返すと、大塚先生はやはり、といったような声音で言葉を返してきた。
「先日、必修クラブの申し込み用紙を冬獅郎くんに持たせたのですが提出がなく、今日が期限だったのでどうしたのかなと思いまして」
申し込み用紙。
初耳だ。
すぐに夏休み明けてから冬獅郎くんに渡されたプリントを思い返してみたけれど、申し込み用紙どころか必修クラブに関するようなプリントは受け取っていない。
申し訳なさそうにそう言ってみると、さすがは小学校の先生、とっても明るいお声で
「そうですか、無くしてしまったのかもしれませんね。ではまた冬獅郎くんに持たせます」
と言って下さいました。
しかし、ここは甘んじてばかりいる訳にもいくまい。
どちらにしろ手間ではあるが、FAXで申し込み用紙を送ってくれるよう頼み、明日冬獅郎くんに持っていかせる旨を伝えると、
「分っかりました、ではそのようにさせていただきます。では一度失礼いたしますね」
そう言って電話は切れた。
ふむ。なんとも先生らしい先生だ。
高校にもあんな感じの先生はいるが、小学校だからかことさら喋り方といい雰囲気といい、独特なそれがある。
まあ……蒔田先生のような先生もいますけどね。
そんな風に、一人ぼうっと取り留めもなく考えていると、目の前の電話がコールを二回鳴らしてからジーッと音をたてはじめた。
吐き出されてきた申し込み用紙を見ると、空手少年団の文字が目に入った。
なんだか中国雑技団みたいな名称だな。
コピーの終了した紙を手に取り、
ふぅむ。空手か………
らしいと言えばらしいのか、今風呂に入っているマイ弟の姿を思い浮かべて、体は小さいが無駄に強そうな気がした。
電話の下の引き出しからハンコを取り出し、自室に戻る前に両親の部屋に寄って、申し込み用紙をコピーし直した。
感熱紙ですからね。保存が必要な書類だから、消えたら困るでしょうし。
部屋に戻って、今度はそのまま絨毯に寝転がり、ルーズリーフを下敷きにして申し込み用紙に記入をはじめた。
すると、風呂から上がってきた冬獅郎くんが部屋に戻ってきた。
「お帰りー」
記入の手を休めずそう言うと、軽い足音が頭の横までやってきて、冬ちゃんは腰を下ろした。
毎日、私が彼の頭を拭きますから、風呂上がりは私の傍に寄ってくる習慣が付きました。
……これって可愛くないでしょうか? 私、内心毎回ニヤついちゃったりしてますけども。
一通り記入が終わって、寝転がったままくるりと反転すると、冬獅郎くんが用紙を覗いていた。
「さっきね、先生から電話があってFAXで送ってもらったの。最初に貰った紙、無くしたの?」
冬獅郎くんの肩にかかっていたタオルを手にして、濡れた白い髪にかぶせてわしゃわしゃやりながら尋ねる。
小さな頷きを確認して、次からは気を付けるようにと注意を与え、空手の話で盛り上がった。(私しか喋ってないけど)
その内に、じっと翡翠色の瞳がこちらを見下ろしているのに気付き、ふと私は髪を拭く手を止めた。
私が寝転がったままで、冬獅郎くんが座って私を覗き込むように前屈みになった体勢なので、視点がいつもと違う。
なんだか不思議な光景だと思っていると、冬獅郎くんの濡れた髪の一房から、つうっ、と雫が流れ、
「むっ」
ポタッと私の頬に落ちてきて、思わず目をつむった。
それからすぐ目を開けるのとほぼ同時、冬獅郎くんの白い手が伸びてきて、風呂上がりで熱い指先が、私の顔の雫をぬぐった。
何気ない動きではあったけれど、やっぱり、うん。縮まってる姉弟の距離。
日々冬獅郎くんから与えられるその実感に、浮かべてしまった止められない惚気顔に、怪訝を向けられたけれども、構うものか。
抱き枕みたいに抱え込んで、徹底的に髪を拭き上げてやった。
。.。.。.。.。.。.。.。.。.。
(´∀`)(何だ
ごめんなさい、書きながら脳内妄想で一人萌えまくり、ニヤけまくってた気持ち悪い管理人です。
翡翠の瞳で見つめられたら萌え(燃え)尽きてしまうよ、シロちゃん。
必修クラブ、何にしようか迷いました。
よく、他サイト様では、部活はサッカー、バスケが多い気がするのですが、それはシロのイメージなんですかね。それともアニメの影響なんでしょうか。確かサッカーのシーンあったような。
管理人はアニメほぼ見てないので分からないのですがね。orz
スポーツ少年団といえば、野球かサッカーみたいなイメージありますけど、あえて空手。
そういえばシロに空手やらせてるサイト様をお見かけしたことがないなあ……無駄に冒険してみました( ̄ー ̄;)
剣道も悩んだんですけど、防具とか揃えるの大変だ……と変にリアルな事を考えました。
でも中学に上がったらやらせるかもしれません。ただ単純に管理人が、シロの袴姿を見たいので(ノ∀<*)←
時に、カウンターが一日700越え、ランキングが脱色三つとも一位になっておりました(+0+)ぁゎぁゎ
日々来訪下さいます皆々様のおかげでございます、この場を借りましてあつく御礼申し上げます!
08.2.10
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