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夕食という名の惣菜を買いに走らされていたらしい父は、寿司やらフルーツやらの入ったビニール袋を大量に引っ提げて帰ってきた。


相変わらず料理をしない母親だ。


豪華といえば豪華な、パックのそれらを皿に移しかえ、温めたり盛りつけたりしてすぐに支度は完成した。


さすが、とっても手慣れた動きで、手早い。




「はいはい、お姉ちゃんすわんなさい。しろちゃんもいらっしゃっい」



早速の姉扱い。驚くくらいに実感がわかない。

そういえば子供が二人は欲しかったらしい母だ、いつかは子供をそういうふうに呼びたかったのかもしれない、とは、ふと思った。



元からセットで四脚あったリビングのテーブルにつこうとして、最初に私が家に入ってから一歩も動いてないマイ弟を発見。


ちょいちょいと手招きすると、少しおののいたみたいな顔をして、後じさられた。
なんでだ。



「おいで」



自分の隣の椅子を引いて示しながら言うと、ようやく冬獅郎くんは重い足を動かしてこちらにやってきてくれた。



「さぁ、パーティーパーティー!」



冷蔵庫からあるだけのビールをあさってきて、でーんとテーブルに並べる母。500ml缶一抱えっ…全部飲むつもりだろうか。



「ちょっと手薄ねぇ」

「十分ですよ!?」



どこからか持ち出したクラッカー(おそらくクリスマスの余りだ)を、なんの前触れもなくぶっ放し、歓迎会を誕生日かなんかと勘違いしている母に指揮を取られ、やたら料理の多いディナーパーティーがはじまった頃には、もう言い返すのをあきらめた。

結局、私が何を言ったところで、いまさらこれはどうにもならない。

ふふっ……悟りの境地よね。



高級と書かれてあった四人前のパック寿司(×3)に手を伸ばしながらちらりと横を見ると、母に取り分けられた料理が山のように積まれた取り皿が目に入る。


もちろんそれは、冬獅郎くんのもの。



面倒を見てやっているつもりのお節介な母が生んだ産物は、ほとんど減っていない。


確かに私でも食べ切れそうにない量ではあるけれども……。




結局、冬獅郎くんがその日口にしたのは、半人前にも満たない程のわずかな量だった。

















夕食という名の、母主催のどんちゃん騒ぎが一段落して。


居間で父を巻き込んで酒盛りの続きをやっている母はもう放っておいて、テーブルの上の無惨な残骸を片付け、余ったフルーツやなんかは大皿に盛って居間の卓にのせた。



つまみがなければ胃が荒れる。という建前の、残飯処理である。





かわいそうに、勝手に連れて来られた揚句、酔って前後不覚の母に酒盛りに巻き込まれそうになったマイ弟は、私が救い出し、廊下に待避させてある。




リビングが一通り片付いたので廊下に行ってみると、私が連れ出した状態のまま立ち尽くしていた。


「さて、疲れたでしょ?」



尋ねてみたけれど、少年は沈黙のまま、頭を少し動かしただけだった。


返答にもなっていないそのわずかな動きに、これはなかなかの強敵だと意識する。



孤児院から来たからには、それなりの事情の持ち主なんだろうけれど。


覗いてみた整った綺麗な顔からは、なんの感情も伺えなかった。



「お風呂に入ろうか。おいで」



放っておけば動きそうにもないので、手を取って連れ歩く。



着替えを探しに一旦自分の部屋に戻ってみれば、ご丁寧に布団が一組、増えていた。


えぇ、予想はしてましたとも。


両親の部屋と私の部屋しかないこの2LDKのマンションで、この子の寝る場所が私の部屋になるであろうこと位。



別に文句なんか言いません。仮にも年頃の娘の部屋に、初対面の少年をほうり込むからって、私は文句なんか言いませんとも。



「そういえば、荷物はどうした少年?後から送られてくるの?」



……沈黙。

もしかして喋れないのか?と思いつつ、さすがにそうでなかった時のことを考えて面と向かってそうと聞けない私。


これってチキン? と思いながら部屋を見渡せば、見覚えのない小さな青いリュックサック。



「これ冬獅郎くんの?」



相変わらず返事がないものの、おそらくそうと悟って、一言断ってからリュックをあける。



中には、施設での支給品と一目で見て取れる、最低限の着替えなどの生活必需品が入っているだけだった。



それまで、身寄りのない子がうちに来たという感覚しかなかったのが、一気に冬獅郎くんの置かれている状況を思い知らされた気がした。


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