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「運動会のお知らせ……」



いつものように、自室の学習机代わりの私の机の上に置かれた幾枚かのプリントたち。


その中の一枚に、ちょっと唸ってみた。

厚紙を二つ折りにされた運動会のしおりを開いて、もう一度唸る。
それから卓上カレンダーに視線を向けた。



本日、九月十六日。

運動会、十月の第二日曜日。



「う〜ん………」


私の方の体育祭は第四日曜日だから、その辺は問題ない。

では何をこんなに唸っているのかと言うと、昨日の電話にあった。



久しぶりに、ロシアの母上からのお電話でございました。

母上がおっしゃることには、



『そろそろ帰ろうと思うのよ〜、事態も落ち着いて来たし、勝ちゃんと話して、同意もらったしね』



あ、勝ちゃんというのは、以前にお話ししました大手出版社の編集部長さんです。



『もー、早く私の可愛い息子の顔がみたいってのに、あのオッサン、せめてロシア政府の対策方針の打診案が出るまではとか言いやがってこの野郎が(〜云々)』



ハイ。

国際電話でよく分からない愚痴を聞かされましたが、要約すれば、彼らの帰還の日程はロシア政府次第ということで。





制服から着替えた私は、プリント片手に部屋を出てリビングに向かう。

涼しい居間で辞書ひいてるマイ弟を一度見やり、



果たして運動会とロシア政府、どちらが先になるかとため息をついた。

間に合えばいいのだがと、あと一ヶ月は裕に切ってる日付に憂う。


台所で晩御飯のビーフンを水に戻し、居間の白髪美少年の許へ。

キッチンを出てダイニングテーブルを回り込んだ時、こちらに背を向けて座っていた冬獅郎くんが、不意に頭を上げて首をめぐらせた。


探すような動きをする彼の視界に私が姿を現すと、その動きは落ち着く。

彼の横のソファに腰を下ろせば、少年は今まで見ていた国語の教科書を差し出してきた。


何事かとそれに視線を落とせば、とある一文が指で示される。

どうやら、読めということらしい。



「うーん? 草の葉に揺れゐる露の、落ちんとし、いまだ落ちぬを、落ちよとし、見つつ待ちゐて、落ちにけり。驚きにけり。」



あらまあ、と私が驚いた。北原白秋を、小学生でやるんですか。

北原白秋の露を読まされた私は、思わずも教科書を再確認。


こんな学年でこんなの、昔習ったかしらん?



多分、“ゐ”が分からなかったんだな、と尋ねると、コクンと頷きが返ってきた。

そりゃそうだ、漢和辞典には載ってない。ひらがなだもの。


そう教えてやって、ついでに“ゑ”も教える。




…………そうかぁ…知らないか……。




一体、この子はどうやって日本語を避けて通ってきたのかしら……実はこう見えて、本当は外国人?


出会った時から私の中で不思議少年の異名がつけられている冬獅郎くんは、馴染んではきてくれているものの、実際のところ彼について知ったことは少ないと気付く。


少ないっていうか……無い?


教科書に書き込みしている少年を見下ろし、いやまあ良いんだけど、と内心でぼやく。



良いんだけど、なんだか今更ながら、奇妙な巡り会わせだ。



「ねぇ冬ちゃん、運動会は何に出るの?」



書き込みが一段落した冬獅郎くんに、しおりを掲げて尋ねる。


こちらを振り返った冬獅郎くんは、視線をさ迷わせた末、指をさす。



徒競走、障害物競争、そしてちょっと指が逃げるような動きをしてから、スプーンレースを指差して下ろされた。


よく見れば、スプーンレースは親子競技。



「お母さん、絶対やるって言うだろうな………」



呟いたら、やけに驚いたように冬ちゃんがこちらを見た。



「あ、そうだ言い忘れてた、昨日、冬獅郎くんがお風呂入ってる時、お母さん達からそろそろ帰るって電話があってね、まだ分からないけど、もしかしたら運動会に間に合うかもしれないね」



ぬか喜びはさせたくないので、断定的な言い方を避けてそう言うと、彼の思ったこととは違ったらしい、曖昧に視線が外れていった。


それでも負の感情は見えなかったので、深く聞くのはやめておいて、



「頑張れよ少年、これもな」



プリントの中にあった漢字と算数の小テストを掲げて。

今週分らしい数枚のそれは、三枚ずつ。ちなみに、

漢字零点、五点、十五点。
算数、百、百、百………。


なんかよく分からない格差。

算数好きかと前に聞いた時は、首を捻っていた。
単純に得意なだけなのだろうか……。



「ま、漢字も点数上がってってるしね、冬ちゃんよく勉強するしね、すぐ出来るようになるよ」



私にくしゃくしゃと頭を撫でられていた冬獅郎くん。

しかし彼はふとしたように動いて、さっきまで手にしていた私の漢和辞典を引き寄せると、表紙のすき間に挟まっていた一枚の紙を取り出した。


ぽけっとして眺めていた私に、渡される。


頭上に疑問符を浮かばせながら、無駄に綺麗に小さく折りたたまれた紙を開くと、



普通科 英語T 内田 祐 …………七点。



「うわぁぁああ!?」



素で絶叫しました。

いや、違うんです。これは高校入って間もない頃のテストで、テスト範囲の勉強を誤ったというか先生の話を聞き間違えて………!



ってあわてふためいて冬獅郎くんに弁解したら、なんだか笑いを堪えられた気がした。



「こぉ〜のぉ〜、いい度胸だ弟!」



照れ隠し半分で適当な絞め技(主に抱き着き固め)かけて、とりあえず何がなんでもいいから降参させ、


冗談にしても出来すぎたテストに、脇腹が痛い程に二人して笑わされた。










私からは小刻みに揺れる華奢な背中しか見えていなかったし、声もなかったけれども。

冬獅郎くんも、笑っていたようだった。

















。.。.。.。.。.。.。.。.

昨日ディーノさんの誕生日でしたねぇ………(´ω`)(何

我が父上と同じですよ。ちなみに私は明後日が誕生日で、確かFFのエアリスと同じなんですよね。


ちっ、シロちゃんと一緒だったらよかったのに←



管理人の私生活により、更新停滞ぎみで申し訳ありません(-_-ι)

とりあえず今からモバゲの伝言板に返信して参ります三(ノ><)ノ




08.2.5


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