027
「ただいま〜、っと」
家に帰った時刻は、いつもより一時間早かった。
ひょんなことから一限少なくなったため、帰り道には普段は見ない小学生の姿をよく見かけた。
小学校はこの時間が終業だったかと、途中でマイ弟に出会わないかと、不審者よろしくキョロキョロしながら帰ってきたのだが、残念ながらあの白髪を目にすることはついぞなかった。
家に上がって洗面所に寄ってから自室に戻ると、冬獅郎くんが下から視線を投げた。
「ただいま」
視線を合わせてそういうと、戸惑っているのか照れなのか、ビー玉みたいに綺麗に透き通った翡翠の瞳がクリクリ動く。
それがまた、なんともかわいらしいといいますか、思わずもにやけてしまいそうな程愛らしいものでございまして。
わざと毎回目を真っすぐ見てただいま挨拶してやる私をSだと言われても構いませんとも。
机にカバンを置いて、絨毯の上で小さめのローテーブルに向かっているマイ弟を見下ろし、
「宿題?」
そういえば新学期が始まってから一度も見なかった姿だ。
私の机の上に置かれていた、真新しい連絡帳と保護者向けのプリントを見る。
連絡帳には、先生からの伝言しか書かれていなかった。
あれ? これって、今日出された宿題とかメモとか書き込むものじゃなかったっけ?
そう思いながら、先生の言づての欄を見れば、
『授業に取り組む姿勢はとても真摯で、学校での生活にもだいぶ慣れたようです。テストやプリントで分からない所があっても、空欄にせず何か書き込むことが出来るようになるといいでしょう』
へぇ…と先生の伝言に妙に感心しながら、ふと下の冬獅郎くんの取り組んでいるドリルとプリントを覗き込んだ。
「…………」
もう一度連絡帳のコメントを確認して、納得。
回答三割、空白七割。
よく見てみれば、答えが書き込まれている問題は全て正解している。
あぁ、確かにこれは先生が言うのも無理はない。
冬獅郎くんの隣に座って、今まさに五問位一気にすっ飛ばそうとしていた少年の手を掴んだ。
「指導」
ピーッと笛を吹く真似をして柔道の審判のモノマネ。
「なんとなくこうかな〜? っていう答えとか思い浮かばない?」
首を傾げて問えば、同じように冬獅郎くんもゆっくり首を傾げた。
それがどことなく困っているような雰囲気がしたので、二人してしばらく首を傾げたまま止まっていた。
「えーっと……ほら、これは? 江戸幕府を開いた征夷大将軍の名前」
問い掛けると、さほどの間をおくこともなくサラサラと書き込まれた、手本に忠実ながらどこかいびつな文字。
とく川いえやす。
うん、合ってる。合ってるけど、せめて家くらいは漢字で書こうね。
次の問題を読み上げると、冬獅郎くんはそれも難無く正解を書いた。
「じゃあこれ、江戸時代の階級を表す言葉、漢字四文字で答えなさい」
……………。
冬獅郎くんの手が止まった。
これは解らなかったらしい。
私は冬獅郎くんの教科書を引き寄せて彼の前に社会を広げた。
「はい、江戸時代のページ開いてみましょー」
鉛筆が置かれて、白い指がページをめくった。
5枚めくって7枚戻り、12枚進んで3枚進んで2枚戻る………
チー〇ーか!!
「はいはい指導二回目。相手にポイント入っちゃいましたよ」
止まらない冬獅郎くんの手を留め、ページ横に記された章の名前を示した。
「室町時代まで戻っちゃってるからね。とりあえず江戸時代まで進化しましょう」
よく見かける、徳川家康のあの黒い装束姿の絵が載っているページを開いてやった。
しかし今時の教科書は豪華なことだ。私が小学生の頃は特別資料のページ以外は2色刷りだったぞ。
全ページ見事なカラーのそれに時代を感じつつ、高校の小さな教科書に並んだ堅い文章の細かい字を見慣れた目にはひどく新鮮に映った、字が大きくて易しい文に更に経った年数に憂いた。
そういえば中学に上がった時、やけに教科書の文章が難しくなってて、びびった記憶があるなぁ………
「はい、このページに答えがあります」
感傷に浸ってしまいながら、そう言って教科書を冬獅郎くんに提示する。
なんだか懐かしくなって、冬獅郎くんの他の教科書もパラパラめくってみた。
弟がいるって面白いなあ…。
そんな事を思いながら冬獅郎くんを見ると、
硬直。
いや、固まっているというか、動かないといいますか。
「ふ、冬ちゃん?」
答えが書いてあるページさえ見れば、後は大して悩むこともないと思うのデスガ。
特に冬獅郎くんは頭が悪そうではないし、むしろこの家の勝手について教えた時も何でも一度で覚えて、少なくとも私なんかよりは何倍も頭は良さそうだ。
横から冬獅郎くんの視線を覗いてみたら、彼のそれはフラフラとアテもなく教科書を動き回り、文を読んでいる様子はない。
疑問に思って、答えが書いてある右側のページの下の方を指差した。
「ここから読んでごらん」
そう言うと視線は定まったが、今度はその最初の一行から視線が動かない。
これさすがにおかしいと思い、ふと今までのことを思い返してみた。
彼は文章を読むのが苦手だっただろうか?
そうして考えてみて、はじめて気付く今まであったささやかな出来事。
そういえば彼は本こそ手にするものの、ページをめくる手がいつも一定ではなかったとか、古書セールに行った時に見ていたのは外国の本だったとか、その本を読む時だけはペースが一定だったとか……
もしかして。いやまさか。
でもこの不思議少年を前にしていると、有り得ないことなどない気さえしてくる。
「冬ちゃん……日本語あんまり得意じゃない?」
出来るだけ優しく尋ねてみる。
のろい動きで教科書が冬獅郎くんの手からテーブルに戻された。
どこか虚ろな顔をしていた。
それは、この家にはじめて来た時の虚無な彼のようで、なんだか私の方が不安になって、冬獅郎くんの名前を読んだ。
冬獅郎くんはこっちを向いたが、顔は完全に私に向けられず、視線は私の膝辺りに落とされていた。
「……そっか、冬ちゃんにも苦手なものなんてあったんだねぇ」
わざとだが、明るい声を出した私に、わずかながら冬獅郎くんの顔が持ち上がった気がした。
「よし、じゃあ特訓だ。とりあえずここの文章に振り仮名振ってみよう」
深くは問わず、私は分かるやつだけ書いてごらんと言った。
今までのことからして、会話に問題はない。
まあ確かに喋らないけど、話し掛けられる分には全て理解しているみたいだし。
苦手なのは読み書きだけだろう。
ドリルの以前にやったページを見ても、ほとんど平仮名でしか書かれてなくて、漢字はほぼ見当たらない。
一年生の漢字も余り分からないのだとしたら、五年生の教科書はほとんど理解不能だろう。
だったら授業中、先生の言ったことだけで物を覚えているのだろうか。
……むしろそっちの方がスゴくないですか?
なんだかんだで教科書に二人で振り仮名付けまくって(問題の答えには漢字で士農工商と書かせました)いる内に、変に盛り上がって社会の教科書、習っている所一章分、全て解説付きで振り仮名が書き込まれた。
「……漢字のテストに強くなりそうだね」
何も書き込まれていないページが寒々しく思える位無駄に色々書かれた教科書に吹き出す。
笑って冬獅郎くんの髪を撫で回したら、教科書を見た表情がちょっと緩んで、普段無表情な彼で言うところの笑ったような気がしたが、すぐに泣きそうな……あくまで私の感覚ではあるけれど、そんな顔になったように思った。
私が真っ白な髪の頭を引き寄せてふざけた風に抱きしめたら、抵抗しなかったところを見るとやっぱりそうだったんだろう。
暗くなりはじめた部屋の中で、私はしばらくの間、暖かくて華奢な背中を抱え込んでいた。
。.。.。.。.。.。.。.。.。
冬ちゃん人気投票一位おめでとう!!
いつかやってくれると、お姉さんは信じていたよ(;Д;)
でも原作シロは軽く100歳行ってるんですよね………向こうのが年上。
今から半年位前でしょうか、映画公開がジャンプに掲載された頃
「絶対この映画公開直後に人気投票したらシロ一位だから!やろうよ人気投票!!」
とまぁ、編集部となんら関係ないヲタ友数名に迫ったのは他でもない管理人です(痛
本気でやって欲しかったんです。前回が一護と40票位しか差がなかったですしね、本編でもシロの登場シーンさえれば間違いなく一護は抜いたはずだと言うのは、シロLOVEな管理人の欲目でしょうか(笑)
一護も好きなんですけどね。一護ファンにしてみれば、今回の人気投票の開催時期は嫌がらせに思えたかもしれません(;^_^A
しかしDグレやNARUTOの人気投票にしても、主人公立場ない……(苦笑
一護はルキアにまで抜かれてしまいましたねー……一護の次グリムジョーですか。
管理人はウルキオラ派なので(ノ∀<*)
でも10位入賞おめでとうo(^ヮ^)o
あ、ちなみにアンチ日雛派ではありません(笑)
原作ではくっついてくれたらいいと思いますよ(←シロの告白シーンとか見たい人
ちなみにこの結果を知った管理人は全ての物を投げ出してニコ動に飛び、シロ動画を見ました。
萌え〜…(●´∀`●)
おかげで男らしい男の子だったことを思い出しました(ぇ
最近の管理人の書くシロはナイーヴになりすぎていたかと反省、今日も危うく泣きつかせる妄想が頭の中を飛び交ったのを押さえこみました。
notキャラ崩壊は管理人の目標です……原作のイメージそのままを保持出来る夢書きさんは本当に尊敬します(´o`)
さてさて、実は当サイト、先日ついに一日訪問者が400を突破しまして、あげく一つのランキング一位になっていたことに爆死しました。
い、いいんでしょうか、オロオロしてますけど(/_\;)
維持するなどとても若輩者には言えませんが、皆様の支持に応えられるよう励ませていただきます((o*>д<)o
あ、ちなみに最近、やけに教科書が豪華になってませんか?内容薄くなってく割に。(でももうゆとりは終わった
小学校の時、教科書が2色刷りだった方は、管理人と同世代です(笑)
でもさすがにチー〇ーは古かった………元ネタ分かった方どれくらいいらっしゃるんでしょう……(´▽`*;)三〜歩進んで二歩下がる♪
後、5年生の教科書の内容については、適当です。
管理人は一人っ子ですしね……下に兄弟いたら、教科書見て懐かしく思ったりするんでしょうね。
つか後書き長すぐる……自覚はあります(;___)
もはやブログ化してますね。
生暖かい目で見過ごしてやってください( ~-~)
ということで、シロちゃん一位おめでとう!!
08.1.28
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