021
遠くでインターホンの鳴る音がする。
私はやけに纏わり付く寝巻と自身の髪を意識しながら、いまひとつ覚醒しきれていなかった。
眠いというより、泥沼にハマって、抜け出せないようなだるさ。
夢うつつという状態を保ちながら、起きなければという思いはあるのに、体が言うことをきいてくれなかった。
「冬ちゃん………」
やっと、唯一動いてくれた口が、冬獅郎くんを呼んだ。
それをキッカケとして、ゆっくり目が開く。
一度目覚めると後は動くに易く、重い、重すぎる上半身を引き起こした。
だるすぎる。
隣の布団を見ても、そこに冬獅郎くんの姿はなかった。
また鳴るインターホンの音に立ち上がりながら、そういえば随分前から鳴っていた気がする。
いつもより長く感じる廊下を歩きながら、リビングと玄関の間に立っていたマイ弟を発見。
おや、と思いつつ隣まで行くと、振り返って私の顔を見るなり、どこか不機嫌そうになった。
え、私がなんか悪いんですか?
頭をかきながら玄関のドアノブに手をかけ、のぞき窓から確認。
見知った顔に、すぐに鍵をあける。
その間に、冬獅郎くんは部屋に戻っていった。
「あ、ご無沙汰」
扉を開けた先には、先日に宿題をやりにきた同級生の、あの特別仲がいいという訳ではない男子。
私の体調とは真逆な、晴れやかな笑顔で片手を上げた。
「元気? それとももしかしなくても、寝てた?」
「うん、大丈夫だけど…どうしました、急に?」
いや、ケータイにメールでも入ってたのかも知れないと思いながら、軽く放置されているそれを頭に思い浮かべた。
もしかしたら電池すら切れているかもしれない。
「よかったら夏休みももうすぐ終わるし、遊びに行かないかなと思って。実は浅野通してイベントとか誘ったんだけど、浅野から内田が音信不通だって報告が来てさ」
「音信不通ですか」
笑ったが、口から出たのは自分でもどうかと思うような乾いた笑いだった。
これはそうとうきてる、自分。今日はもう寝倒そうか。
遊びに誘われている身ながら、そんな失礼なことを考える。
だってもとより、夏休みは冬獅郎くんと過ごすつもりだった。
「えーと崎守くん、ごめんね、今日家空けられなくて。誘ってもらって嬉しいんだけども」
「そっか、いや忙しいならいいんだ、悪かったな寝てたとこ」
「ううん、気にしないで。あ、そうだ崎守くん、ちょっと待ってて」
引き返し、リビングに行ってからまたすぐに玄関に戻る。
そうして持ってきたそれを崎守くんに手渡した。
「チケット?」
「うん、あの三駅向こうに出来た大きいプールの一日券。私も行ったんだけど、券余ったからよかったら使って。期限もうすぐだし」
「え、内田誰と行ったの?」
「え?」
そこを突っ込まれるとは思わなかったので、思わず吃ってしまった。
まあ、香奈が音信不通だと言うのに、他に誰と? と思うのは当然かもしれない。
「家族と、まあ」
あんまり冬獅郎くんのことでさわがれたくないとそんな言い方をすると、内心はどうか知らないが崎守くんは納得したように頷いてくれた。
「俺まだここ行ってねぇんだよなー、すげぇ嬉しい。えっ、すごかった? ここ」
「うん、広いし温泉もあるし、色々お店入ってるし……」
「マジで? 何あるの?」
「えーとね……」
あれ、会話が終わらない。
それから何度も話のキリが見えそうになるも、なぜか延びていく会話。
崎守くんにそういう癖があるのか、次々に話題が付け足されていく。
玄関先で一体どれだけ喋っているのだろうと思いながら、どうにも打ち切ることが出来ない。
全開の玄関からあびせられる外の熱気と、身体の内側から沸き上がってくり熱気とで今すぐぶっ倒れてしまいたい。
体調が著しく悪化していくようだ。
「でさぁ、この前内田に教えてもらった宿題、めちゃめちゃわかりやすかったんだけどさ、よかったらまた教えてくんない? 受験とか言われはじめてるけど、正直今の授業もついていけてなくてさー」
「いや、人に教えられるような頭は私にはないから……」
ああまずい…目眩。
こういう時って、どうやって話終わらせればいいんだろうか。
眩しい外をバックにした崎守くんを見ているのも辛くなりはじめた。ちょっとホントに座り込みたいかも……
「え、内田、まだ眠い?」
勘違い崎守くん……
でもいっそそんな理由でもいいから、今はお引き取り願いたい……
「まさか体調悪い? 内田、親海外だったよな、家誰もいないんだろ?」
「え?」
「大丈夫か、熱とかあるんじゃねえ? 俺ちょっとお邪魔していい? 横になった方がいいって」
そう言って私を支え、今にも家に上がらんばかりの崎守くん。
その気持ちは有り難いが、ぶっちゃけてしまえば今は君が帰ってくれる方が有り難いです……
なんだかすごく良心発揮してくれてる崎守くんを、止め切れない私。
気力的にも体力的にも……
だるさが最高潮に達した時、
バタンと奥で音がした。
軽い足音が近づいて来て、私の腕を掴んで引いた。
「冬ちゃん……」
「えっ、…え?」
呟いた私に対し、目を丸くした崎守くん。
うんまあ。
他の子ならともかく、白髪翡翠瞳の美少年が、他に誰もいないと思われた家から突然現れたらビックリすると思う。
冬獅郎くんは掴んだ腕を更にひいて私を引き寄せ、その圧倒される瞳で崎守くんを見上げた。
「えっと……内田?」
助けを求められるようにこちらに話をふってきた崎守くん。
「ごめん、弟」
「え、マジで!?」
瞠目したままの崎守くんを、冬獅郎くんはいつもより力強い視線で見上げ続け、ようやく我に返った崎守くんは、
「だったら安心だな、看病任せたぞ内田弟!」
ようやく帰っていった。
扉がしまり、立ち去る足音が聞こえて、
「助かったよ冬ちゃ〜ん……」
だらりとよりかかった。
あー、楽。
半分力を抜いた私を布団まで連れていき、そこへ投げ出した冬獅郎くんは私の額に手をあてた。
「あ、熱はないと思う。理由は分かってるから」
片手をあげ、ちょっと悩んでから再び口を開く。
「女の子には月に一回体調が悪くなる時があってね、病気じゃないから大丈夫」
迷ったけれど、一緒に暮らしているわけだし、特に私は生理が重いから知っておいてもらった方がいいと判断を下した。
毎度心配させるわけにもいかない。
眉を寄せ、私を見て悩ましげになる冬獅郎くん。
熱が出ているなら冷ませばいいが、だるそうな相手への処置法に悩んでいる、といったところか。
気にする必要はない、と言う前に、冬獅郎くんは何かしら思いついたらしく。
隣までやってきて横に寝転び、華奢な手でそっと背をさすってくれた。
感動しすぎて、抱きしめるのが遅れた。
結局、私の腕の中に閉じ込めて逆に頭を撫でられるハメになった冬獅郎くんに、
「ありがとう、助けてくれて」
言えば、背をさする手がさらにぎこちなくなった。
本気で、当分彼氏はいらないと思った。
その日、史上最強の抱き枕を得た私が、例え恐怖の二日目だろうと幸せに一日を寝倒したことは言うまでもない。
.。.。.。.。.。.。.。.。.
崎守くん損な役まわり。
そんな悪い人じゃないんですよ、崎守くん。
しかし夏休み前回で終わるって言ってて、めちゃめちゃ続けててすみません。
崎守くんネタ書くの忘れてたんです。
生理ネタは思いつきで引っ付けました。
というか、今管理人がまさに襲われたので書きました(ヲィ
管理人、波はあるものの結構重い方です。
薬使いたくないんですけど、何回かに一回はこらえきれずに使います、バファリン。
でもバファリン半分は優しさで出来てても、シロにはかないません。
シロは120%の萌えで構築されてますから。←
そういうわけで、ちょっと更新停滞したら申し訳ありません………
あ、連載に関するアンケ設置させていただきました。
いっぱいは出せないですが、BLEACHキャラはやっぱり出ていただきたい、という管理人の欲望。
シロにも男の付き合いをさせたいですしね(>艸<*)
BL的な意味ではないですよ( ̄□ ̄)
というわけでよろしければアンケ、ご協力お願いします(>人<)
08.01.06
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