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受験という考えるだけで肩荷の重い儀式を意識しはじめなければならなくなる年。


つまりはわたくし、内田 祐は、高校二年、自由を思う存分満喫できる最後の夏休みを迎えていた。



のだが。

この年の夏休みは、のんびり過ごせるどころか、私の人生最大と確信する革命が起きた。
















「ただーいま、っと」


夕方。
お出かけといえるほどでもなく、近所の本屋やらコンビニやらをぶらぶらと歩いて、私は自宅のマンションに戻った。


ビニールの袋片手に家に上がれば、玄関に見慣れぬ小さな靴があることに気付く。


はて。夏休みに親戚の子が来る予定なんてあったろうか。


お客さんにしても挨拶位は必要だろうと、その見慣れぬ靴が子供一人分しかないことに首を傾げつつ、リビングの扉を開けた。



「お母さん?」

「祐〜、あんた、ちょっとこっち来なさい」



何か悪寒を感じるよ、母上。


やけにウキウキした声は、リビングの奥から聞こえる。

歩を進めてソファと、両親の念願だったらしいバカでかい薄型TVのある居間に向かえば。




目を疑うような美少年が一人、いらっしゃいました。

















「母上……どっからさらってらっしゃった」


リアクションすらままならずに尋ねれば、ぽん、と白髪美少年の肩を両手で叩いて、不良母はおっしゃいました。


「今日からあんたの弟。冬獅郎くん。どうぞお見知りおきくださいませ」


あぁ、エイプリルフールは四月一日だけだと思ってました。

母はにこにこ、冬獅郎くんは……無表情。
人形みたいにじっとしてるから、綺麗な顔のせいで余計に人形みたいだ。

翡翠の瞳に綺麗な白…いや、銀髪か?

まさに透き通らんばかりの肌もそ、日本人離れしている。
でも顔立ちと名前はとっても和風。


はてさて、謎めいた少年がいたものだ。



「それで? どこからさらって来たって?」

「この子をね、児童養護施設から引き取ったのよ。だから今日から立派なあんたの弟」



しばしの沈黙。

いや、驚かない。驚きはしないぞ。うちの親なら有り得ないことではない。

一人娘の私にも、なんの相談も示唆もなしに家族一人増やすことなんて、この人にとっては大したことじゃないのだ。



「…施設って、引き取るのに前々から手続きいるよね」

「あぁ〜、大変だったわぁ。何回も施設行って、市役所も行って、なんだかんだで何ヶ月も!」



何ヶ月。その長期間に私に話をする時間はなかったらしい。



「じゃなくて! 子供引き取るのに一応審査があるんじゃないの? 経済力はともかく、普段家を開けっぱにするお二人が、審査を通過するなんてとてもとても」

「あらぁ。うちにはちゃーんと成功例がいるじゃない。今の時代にグレもしないで立派に育ってくれた愛娘が。あんたの普段の様子のビデオ見せたら一発OKよ」

「………いつの間にビデオなど」

「あっ、パパ帰ってきたかな」



パタパタと鍵の開いた音のした玄関に逃げる母。

その背中に、大きくため息をついた。


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