018



「ぃやぁあ〜助けてっ、ロミオ、ロミオッ!……………冬獅郎くーんっ!!」



流れるプールの中で流れと人ゴミにのまれて離れかけたマイ弟に、某悲劇のヒロインの如く手を伸ばしてみたけれど、軽くスルー。


仕方がないからちゃんと彼の名前を呼んで、本当に手が届かなくなる前に背中から覆いかぶさるように抱き着いた。



「けっこうハードなのねこのプール……腹筋が鍛えられる」



むしろわめいているせいではないか、と冬獅郎くんの視線がツッコミをいれていた。


なかなか手厳しい弟だ。



「冬ちゃん、このプール持久力が費やされる。あっちのプール行こう」



指さした、波の出るこの施設で一番規模の大きなプール。


冬獅郎くんはそれを容認して足を向けようとしたが、私が背中に乗っかったまま動かないので、顔だけをこちらに向けてきた。



「連れてって、冬ちゃん」



語尾にハートマークが付きそうなわざとらしい声を出してみたら、綺麗な顔の眉間にシワが寄せられた。


そんな顔しなくても。


私が思ったとたん、冬獅郎くんが踏ん張っていた足の力を緩めたので、二人してプールに流された。

それどころか、冬ちゃんが仰向けになったので私は水没。

酷い目にあった。

















「うわぁ…ホントに海みたいだね」



本物の海よりは間隔の広い波に合わせて上下しながら、冬獅郎くんとぷかぷか浮かぶ。


私は大きなビート板のようなものの上に乗っている。

一面のガラス張りの壁と天井から降り注ぐ強い日光と波の揺らめきとでハワイとは言わないまでも海に来た気分には大いになる。

それが三駅分の移動で実現するのだから、素晴らしいではないか。



「バカンスだねー冬ちゃん」



数種類あるウォータースライダーを全制覇して、その内最後までチューブに乗ってられなかったものをリベンジし通し、色んなプールを回ったらなかなか疲れた。



隣で水中にいる冬獅郎くんとまったりしていると、





ブーーーッ!!





空気を震わせるようなアラート音が鳴った。
波のあるプールの正面についた、赤いランプが光っていた。



間もなく、プールの水かさが減り、わずかに浅くなる。



「なに――?」



呟いた瞬間、



プールの一番奥から、今までと比べものにならない、信じられないような巨大な波が押し寄せた。



「えぇえっ!?」



叫んでる間に波は私達の元まで到達。

あっけなく波にのまれた。

















「ごほごほっ、……う〜…鼻に水入った……」



波のうねりが落ち着いて、もちろんボード板から振り落とされた私は水の中。
足のつかない奥まで流されていた。
冬獅郎くんとははぐれてしまったようだ。



自慢じゃないが、私は立ち泳ぎができない。正しくはしたことがないのだが、いきなりその必要に迫られてもできるはずもなく。


平泳ぎを顔を出しまま泳ぐ技術も持たないので、咳込むことも難儀な状態だった。



さすがに溺れはしないが、ちょっとつらいなぁと思っていた所へ、ひょいと体が浮いた。


何事かと振り返ってみると、かなり近くに笑顔があって驚いた。



「大丈夫?いやあ、すごい波だったねえ」



誰だ。

私を片腕に抱え上げた20代半ば頃の見たことのない男。


害のありそうな顔はしていないが、失礼ながら密着した肌が少々気持ち悪い。
冬獅郎くんの時は気にならなかったのに、と思いながら、礼を言ってすぐに離れようとした。



「ビーチまで送るよ、俺も戻るところだし」



人のよさそうな顔でにっこり笑うと、離れかけた私の腰をしっかり引き戻し、泳ぎはじめた。

これにはびっくりして、慌てて首を横に振った。



「大丈夫です、泳げますので、あの、ありがとうございました」

「あはは大丈夫大丈夫、水の中じゃ人一人なんて重さ感じないから」



多分、本当に親切心から言ってくれている男性。
だが私が本当に気にしていることと論点がズレている。



「いえ、連れがどこかにいるはずですから本当に大丈夫で―――うわっ!?」



第三者の手によって、思いがけず男性から引き離された私の体。


視界の隅をかすったのは、白い色。



「冬獅郎くん…」



さっきの男性と同じように私を抱えた冬獅郎くん。
水を髪から滴らせながら、例の真顔でじっと男性を見つめていた。



「あれ…?」

「あ、どうもありがとうございました、弟が来てくれたのでもう大丈夫です」



ありがとうございましたー、と言いながら男性の元を早々に去り、私はようやく息をついた。



「はぁー冬獅郎くん、ナイスタイミング」



足がついていないのに器用に立ち泳ぎする冬獅郎くん。私を抱えているのによく沈まないものだ。


またいつものように真顔で見上げてくるかと思ったら、意外にマイ弟はこちらを一瞥もせず陸に向かって泳ぎだす。



あれ。



冬獅郎くんの反応の薄さに首を傾げながらも、運んでくれるらしいマイ弟に、こちらには遠慮もなくぐったり細い肩に抱き着いて、よりかかった。



当たり前な話だが、やっぱり冬獅郎くんの方が断然落ち着く。
肌もキメ細かくてすべすべだし、柔らかさもちょうどいいし抱き心地最高だし……あ、なんか親父くさい。



不意に冬獅郎の泳ぎが不安定にぐらついたので、思わずしがみつく。


彼の顔を覗き込むと、なんともいいがたい顔付きをしていた。

あれ、私もしかして口に出してた?





冬獅郎くんの反応から、どうやらそうらしいことを悟ったが、まぁいいやと浅瀬で降ろしてもらいながら呟いた。


さすがに今の冬獅郎くんでは、私を通常の重力下で抱え上げるのは困難だろう。

体重、軽く1.5倍以上あるしね。






いつかはそれでも、私の身長なんて何回り分も越えて、今は水中でしか持ち上げられない私を、陸でめ片手で軽々抱え上げる日が来るのだろう。




けれど今回はその小さな体で私を取り戻してくれた冬獅郎くんに、なんだか逞しさを覚えた。

















.。.。.。.。.。.。.。.。.


明けましておめでとうございます(*^□^*)ノ


お正月なんだから、もっとなにか用意すべきですよねー……でもごめんなさい、大晦日に巻き寿司巻きまくってた管理人の、コレが精一杯です(´▽`*;)



とりあえず、プール編終了です。
管理人の脳細胞、やはり死滅してたんで、ネタは新たに生み出しました。


今回の管理人的(偏屈)萌えポイントは、髪から水滴らせてる所です。
もっとなんかあるだろって言われても、ソコなんです。ツボったんです。





そして、立ち泳ぎ&顔つけないで平泳ぎが出来ないのは管理人のことです。

理由は、作中通り、やる必要性に迫られなかったから。
最近海も行ってないんで足着かない体験とかしないですしね。
だから本当に出来ないのかどうかもちょっと謎……

顔つけないで平泳ぎは、出来るっちゃ出来るんですけど、半分溺れたみたいに慌ただしい動きになります。


でも素潜りは得意です(ノ∀<*)




08.1.1


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