怪我の治し方


〜はじめに〜



こちらは本編26話とリンクしております。

出来ますれば、そちらからご覧くださいませ(___)







見た!という方は、どうぞお進み下さい→→→


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「はい………はい………えぇ、分かりました。お手をわずらわせまして……はい」



カチャ、と置かれた受話器に、それまで電話の向こうに謝っていた岸名は、ため息をついた。



「学校からですか?」

「あ、院長先生……。はい、また冬獅郎くんの事でした」

「今度はだあれ?」

「中学生のようです」

「あらまあ」



驚いたような声をだしながらも、院長の顔には驚愕の影もなかった。



「あの子に食ってかかる中学生は、もういないと思ってたわ」

「院長……」



そんな軽々しいことではすまされないと、増見が八の字眉毛の泣きそうな顔になっていた。



「まあまあ。それで?先方はなんと言われているのかしら?」

「後日、相手方の中学校と話し合いの席を小学校に設けるから、来てほしいと」

「じゃあスーツを出しておかないといけないわね」

「ですから院長、そんな軽く……」

「また、冬獅郎ですか?」



事務室に入ってきた葛畑が、妙に厳しい顔付きで院長に尋ねた。

院長が小学校に呼び出されるのはこれがはじめてではない。
葛畑もおおよその事態は聞かずとも分かったのだろう。



「院長、私も一緒に行きます」

「あら、大丈夫よ」

「いいえ、私も指導員として責任がありますから」



きっぱりとした口調に、院長入っ苦笑した。



「そうね……けじめも、必要ね。私たちも」

















後日。夜になって小学校に出掛けた院長と葛畑は、予想より遅い時間になって施設に帰ってきた。

すでに子供たちのほとんどは寝静まった頃で、昼の騒がしさが嘘のようにしんとして、蝉の鳴き声が聞こえていた。



「お帰りなさい、心配してました」

「ごめんなさいね、今回は長引いたわ」



事務室に入った院長の顔からは、いつもの柔和な表情がなかった。

すぐにそのことに気付いた岸名が、何かあったのかと不安げに尋ねた。



「問題の相手の中学生の保護者からね、冬獅郎くんを原級留置にしてほしいという声が上がってるそうよ」

「原級留置……って、留年ですか!?」



岸名が幅の狭い丸い目を更に丸くして、そんな、と言った。

院長はソファに腰を下ろし、深く息をはいた。


「冬獅郎くんの成績は問題になるほど悪くはありません。不登校でもなければ、暴行沙汰で留年なんて認められませんよ!」

「あくまで保護者の要求よ。中学側も、保護者が怒りの収まり所を求めて言っているって言ったしね」

「名文は、現在の成績含み、施設に来るまで学校に通ってなかったことによる、学力と精神面の未発達だそうだ。入院していた子供と同等の扱いにすべきだと」



遅れて事務室に入った葛畑が、やってられないとでも言うようにため息をついた。



「それにしたって横暴すぎます、第一今の教育現場は年齢主義ですよ、ただでさえ小学校での留年は少ないのに、こんな事で認められていいんですか?」

「原級留置はしないという確約を得るのに、今日はちょっと時間が掛かったのよ。元々学校にもその気はなかったようだけど、すぐに提案を棄却して保護者の反発が来るのが心配だったんでしょうね」

「じゃあ留年はないんですね?」

「えぇ、有り得ないわ」



よかった、と岸名が息をつく横で、微笑を浮かべていた院長は不意に笑みを消した。



「だけど、冬獅郎くんが学校に行っていなかったと知られていることの方が問題よ。基本的に保護児童の素性は機密。あの子が自分で言うはずもないんですからね」



事務室に流れた空気は重々しく。

見回りに行っていた増見が戻るまで、その場はひどく静まり返っていた。

















「冬獅郎、入るぞ」



スライド式の部屋の扉を声を掛けつつ葛畑は開く。返事が来ないことは百も承知だ。

彼がいつも夜更けまで起きていることも知っている。


狭い部屋の中には、敷かれたままの布団と机、それから小さな押し入れがあるだけだ。

それでも一部屋を一人で使うのは、この施設では彼だけなわけで。


壁に寄り添うように、窓の下で三角座りをしている日番谷の横まで、葛畑は歩いて行った。



「随分、そこらのガキどもに恨まれてるんだなあ。お前喧嘩売りながら歩いてるのか?」



言いながらタバコをスーツから取り出した葛畑は火をつけ、煙を吐き出した。

外国銘柄のそれは独特な匂いがきつかった。



「―――とにかく、病院と少年院に入るような事だけはやめろよ」



タバコを持った腕につけた時計を見下ろし、



「非番だからもう行くけど、また脱走するなよ」



どうやら日番谷の様子だけ見に来たらしい葛畑は、それだけ告げると部屋から出て行った。





葛畑が部屋にいた間、日番谷は当然のように微動だにしない。


まるで誰も訪れなかったかのように、日番谷は曇った夜空を見上げたまま。



けれど葛畑が部屋を出て行った後、少しして日番谷は空を見たまま、ふっと壁側の腕を膝の上に持ち上げ、雑な動きでもう片手で腕を掴んだ。


長袖の少しめくれたそこからは、擦りむけた肌が赤黒く変色していて、若干の腫れも見て取れた。



血の固まりがこびりついているのが見受けられることからも、手当てされた痕跡は全くない。



患部を掴んでも日番谷は痛みに顔を歪める気配すら見せず。





月の姿すらない空に、ただひたすら空虚な視線を投げていた。


















「そこを動くな少年!」



突如かかった声に、シンクに食器を運んでリビングを去ろうとしていた日番谷は、若干薄い反応ながら、驚いたようにピタリと動きを止めた。


そんな彼に憤然としたように歩み寄ったのは姉歴一ヶ月の彼の義姉。



見上げてくる日番谷の正面に腰に手を当てて立つと、おもむろに視線を落としてしゃがみ込んだ。



「やっぱり」



仕方ないなあと言うような声。


日番谷の七分丈のズボンがめくり上げられたそこには、異常に赤みを帯びた膝こぞう。


血がまだらになっているそれは明らかに擦りむいたもので。


他人の目から見ても、多少心配性で過保護、良く言えば面倒見のよいこの義姉は、本人は否定したとしても少なからず、かまいたがりの母親の性質を受け継いでいるようだった。


彼女は絨毯の上に座らせた日番谷の前に陣取って、さっと持ち出された救急箱を開く。



すぐに傷口は消毒液で拭かれ、ガーゼをあてられて処置された。




透明な消毒液が傷にしみる。
日番谷は今までこの痛みを知らなかった。

優しい痛みだった。





「怪我したらすぐに言うこと。分かりましたかー」



救急箱を小脇に抱えた義姉は日番谷の片頬をつまみ、頷きが得られるとその片手でわしゃわしゃと白髪を撫でたくった。


兄弟がいない割に、彼女が子供の扱いには随分手慣れた様子なのは、本人いわく小さな親戚の子が多いことが理由なのだろうか。


よし完成、と言って立ち上がろうとした義姉の動きを追うように持ち上げた片手で、日番谷は彼女の服の裾をつまんで



軽くぶつけるように頬と頬を合わせ、動きを止めた彼女より先に立ち上がった。



折り曲げられたズボンを戻してから義姉を見下ろせば、ひどく半端な体勢の彼女が固まっていて。


彼にとってお礼のつもりのその行動が、彼女にとってはとても縁のないスキンシップだったことには、仮にも帰国子女の日番谷は気付けず、軽く首を傾げるのだった。













(気付いてくれて、ありがとう)
















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5000hit、綾花様リクエスト、日番谷連載番外編でした…………って。

遅れまして申し訳ございません;
ネタは何気にすぐ思い浮かんだんですが、なかなか中身に取り掛かれませんでした(;___)


最初は今までのキリリクの流れが昔に戻っていってるので、日本に帰ってくる話にしようかなぁと思ったんですが、このペースで戻るとシロが生まれる前まで戻りそうなので、やめました(´∀`)


日本に帰る話でとあるBLEACHキャラを登場させようかとも企んでいた訳ですが、まだアンケが実施中なので踏みとどまりました(;´・`)




ところでこの番外編書いてる途中から、管理人のテンションがおかしくなりまして。


まあどの辺りからかは大体お察しいただけると思いますが、ラストがとんでもないことになっております。


暴走しました。


番外編シリーズが一人称じゃないせいかシリアスに走ってしまってるんですけど、今回途中から管理人が妄想に没入した結果、こうなりました。←


ホントはもっとどエライ妄想してしまってたんですけど、そこは理性と今後のネタ不足に繋がるという危機感で引き戻しました(;^_^A



末尾になりましたが、5000hit踏んで下さいました綾花様、本当にありがとうございました(___)



08.1.26


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