私の場合のキューピッド





今日も並盛は静かだ。


六時間目の授業を聞きながら、私は窓際という極楽地帯で秋の心地よい風を受けている。


目の前でダメツナもとい、沢田くんが先生に当てられて焦っているのを見ながら、私は欠伸をかみ殺した。


すごい頑張って獄寺くんが答えを教えてくれてたのに、結局答えられずに終了。
山本くんに慰められていた。



あぁ、あと少しで授業も終わる。
時計を見上げてその時を待っていた私の身に、事件は起こったのだった。







「「「「「…………」」」」」







しーん、と教室内が静まり返った。

うん、それはもう見事なほど。
教科書片手にチョークを持った先生も、クラスメイトもみんな揃って私の頭を凝視していた。

そして私は、自分の頭上にかすかな重みを感じていた。



「あ、あの…コレ、何乗ってるの?」


恐る恐る、私は自分の頭をさす。すると一人だけ、それは抜けるような笑顔の人が答えてくれた。


「おっ、ヒバードじゃねぇか!山田、仲よかったのな!」


山本くん……それは誤解だよ。

ヒバードと言えばあの最凶風紀委員長になついている、雲雀さんのペット(?)ではないか。

どうして私が仲よくなる道理がありますか!


「えっ、えっ!早く雲雀さんに見つかる前に飛んでって下さい!」


なぜか鳥にまで敬語になる私。

あの雲雀さんに関わるものとなれば、鉛筆一本だって邪険に扱えるものか!


しかしヒバードは、離れるどころか、むしろそこに腰を落ち着かせて喋った。


「スキ、ソバニイテ!」


「はぁっ!?」


「あははっ、離れたくないらしいぜ」


そんな山本くん! あなたが思ってるほど、この事態はほほえましくなんかないよ!!

完全に硬直している私を余所に、授業は終わりを告げた。











道行く人が、みな私を避けていく。

そりゃそうだろう。私だって、こんな恐ろしい物を頭に乗っけてる人がいたら、迷わず退避させていただく。

だがせめて、だれか一人位、助けてくれる人はいないのか!!



「おい、お前!!」


ヒバードに離れてほしいのだけど落ちてもらっては困るため、そろそろと歩いていた私に、声がかけられた。



助かったなんて思ったのもつかの間、振り返った先にいたのは、最悪なことに風紀委員数名だった。


いやでも、雲雀さん本人に見つかるよりはマシなのかもしれない。


「お前、なぜ頭にその鳥を乗せている!」

「か、勝手に乗ってきたんです!離れてくれなくて、取って下さい!」


雲雀さんに見つかる前に!
とは言わなかったが、頭を差し出すと、風紀委員たちは困ったように躊躇した。

雲雀さんの鳥をむりやり引きはがすなんて出来ないのだろう。


結局、来いと言われて私は応接室に連行されることになった。


その時私が、死をも覚悟したのは言うまでもない。




「委員長、失礼します!!」


開かれた応接室の扉の向こうに、私は無情にも押し出された。


さながら、閻魔大王の審判にさらされる気分。



顔なんて上げられるわけもなく、床を見つめていた私は、部屋の奥に動く気配を感じた。



「……なに」


低い声。
雲雀さん、もしかしなくても不機嫌でいらっしゃる?


「はっ、実は委員長の鳥がこの生徒の頭から離れないようで」


「……だから?」


「えっ!?えっと、ですから……」


「別にいいんじゃないの、そこにいたくているんなら」


「そ、そんなっ!」



おそれおおい、とつづけようとして、私ははっと我にかえった。


なに自分から雲雀さんに話しかけてるんだ。地獄をみたいのか私は!



首をすくめて再び床に視線を落とした私に、雲雀さんが歩み寄ってくるのが分かった。

トンファーで殴られる!?


しかし私の身に起こった変化は、頭のかすかな重量感がなくなったことだけだった。


「これでいいんでしょ。早く行きなよ」



ヒバードを手に持った雲雀さんがそう言うと、少しの間呆然としていた私は、慌てて頭を下げて応接室を飛び出した。















翌日、学校に来た私は、皆によく生きていたと歓迎された。

大袈裟ではない。かなしきかな、これが私達が生きている世界だ。





「スキ、ソバニイテ!」


移動教室に向かう途中、聞こえたその言葉に、私は背筋を凍らせた。


急いで振り返った時には遅かった。頭の上にはヒバード。

あんた、私を雲雀さんと勘違いしてないか!!


「誰か取って〜!!」


もちろん、誰も取ってなどくれなかった。









なぜまたここに、しかも自ら足を運ぶことになったのだと自問する。


むしろ、なぜヒバードが私の頭の上から離れないのかと聞き返す。


あぁ、不毛。
応接室の前で私は泣きそうになりながら扉を見つめていた。

前回は無事に生還したものの、二度はないかもしれない。つか、ないだろ。


けれどこのまま家に帰るわけにも行かず、立ち往生していた私の頭の上でヒバードが、



「ヒバリサン、ヒバリサン!!」



ご丁寧にも、呼んでくれた。(泣)


扉はすぐに開いて、出てきたのは外ならぬ雲雀さんご本人。


「……またなの?」


「申し訳ございません(泣)」


「はぁ」



ため息をつかれ、頭に手をのばされる。
ヒバードは素直に離れた。


なぜだお前!今日勇気を出して自分で離そうとしてみたけど、決して離れてくれなかったじゃないか!!



そんなことを思っている間に、雲雀さんはヒバードを連れて去って行かれました。












「ユメコ、ユメコ、スキ、ソバニイテ!」


それから毎日、私の頭にはヒバードが通い、私は応接室に通う日々がなんと一月にも渡り、続いた。

その間、私がトンファーでシバかれることはついぞなく、応接室に向かうことにも抵抗はそれほどなくなっていた。


いつの間にかヒバードは私の名前を覚えていた。






放課後。


いつものように応接室の扉を叩いた私は、中から返事がないことに首を傾げた。


雲雀さんがこの時間に応接室にいなかったことは一度もない。



失礼して、そっと扉を開けてみることにした。


「失礼しま〜す……」


一応小声で呼びかけて、中に入る。

と、そこには雲雀さんがソファーで眠る姿があった。



足音を消して歩み寄り、ソファーの横に屈み込む。


まともに顔なんて見ることはなかったけれど、こうしてみると肌は綺麗だしパーツはどれも整っているし。

女顔負けだな、なんて思っていたら、雲雀さんの瞼が、ふっと持ち上がった。



「わわっ」



マヌケな声を上げて尻餅をついた私に、雲雀さんが眠そうな顔を向けた。





それから雲雀さんが私に手を伸ばしたので、慌てていつものように頭を差し出した私の髪に、一瞬触れた雲雀さんの手は、そのまま滑り降りて頬におさまった。


くいっ、と引き寄せられる。



「……好き、傍にいて」



耳元で呟かれた言葉に頭が真っ白になる。


ここ一ヶ月、ヒバードのおかげでずいぶん聞き慣れた言葉。
でも、これほど衝撃を受けたことはなかった。



呆然としていると、頭からヒバードが、はじめて自分から飛び去って行ったのが分かった。





スキ、ソバニイテ―――





それは、ヒバードがずっと言っていた言葉。



「ひばり……さん」



雲雀さんの瞳が間近で見えた。


「……夢子」


唇に柔らかな暖かさを感じた時には、私がソファーに横たわる雲雀さんの上に覆いかぶさるように、抱き寄せられた。

















「好き」



「……私もです」

















オマケ




「おっ、山田、またヒバードが遊びに来たぜ!」


「ヒバリサン、ワタシモ!ワタシモ!」


「ぎゃーっ、やめてー!!」
















.。.。.。.。.。.。.。


なんか……文才というか、文章力なくてごめんなさい。

100hit踏まれました、鳳凜様に捧げます。


読みにくかったりなんだりしたら、いつでも書き直させていただきます…


ちなみに、ヒバードが喋ってたことは全部、雲雀さんが喋ってたことだったんですね。

もちろん最初にヒロインの頭に座り込みする前から、雲雀さんはヒロインのことを知ってたと。



ここでそういうこと説明するってどうなんだ私。



07.12.11


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